インドが米国からの「ロシア産原油輸入を中断すべき」との警告に対し、輸入継続の方針を明確にしました。トランプ前大統領による高率関税の通知にもかかわらず、インドが毅然とした態度を保つ背景には、その独自の安全保障上の位置づけと経済構造があると分析されています。この動きは、国際的な政治・経済の力学において、インドがいかに重要な存在であるかを示しています。
米国からの圧力とインドの断固たる姿勢
ニューヨークタイムズ(NYT)は、インド当局者の情報として「ロシア原油購買計画に関するインドの政策に変化はない」と報じました。これに先立ち、トランプ米大統領は自身のソーシャルメディアで「インドがロシアのエネルギーの最大購買国になった」と指摘し、ロシア産原油の輸入停止を要求していました。これは、米国がロシアのウクライナ侵攻への圧力を強化する一環として、ロシアの原油輸出を厳しく締め付けようとする意図が背景にあります。しかし、インド外務省のジャイスワル報道官は、「ある国との二国間関係はそれ自体に価値があり、第三国の見方で眺めるべきではない」と述べ、インドとロシアの「長く検証された協力関係」を強調しました。これは事実上、米国への反旗を翻すものと見られています。
インドが国際社会で「スーパー乙」たる所以
インドがこうした強気の姿勢を取れるのは、安全保障と経済の両面で「スーパー乙」と呼べる立場にあるからです。安全保障面では、米国が中国を牽制するために掲げる「インド太平洋戦略」において、インドは必要不可欠な存在です。インド洋における中国の海洋膨張や「一帯一路」戦略を阻止する上で、インドは極めて重要な役割を担うと米国は認識しています。
経済構造もインドの強さの源です。インドの総輸出額に占める米国の比率は17%と大きいものの、インドの国内総生産(GDP)に占める輸出の割合はわずか20%程度に過ぎません。これは、GDPに対する輸出比率が40%を超える韓国などと比較すると、インドが内需によって経済を支える余力が大きいことを意味します。この経済的な自立性が、国際的な圧力に対するインドの弾力性を提供しています。
インド・ムンバイで、米国の25%関税に抗議しトランプ大統領とモディ首相の肖像画を描く学生たち。米印間の貿易摩擦と地政学的な緊張を示す場面。
米国の次なる一手と米印関係の展望
もちろん、米国もこの状況に対し手をこまねいているわけではありません。トランプ大統領は最近、「パキスタンと貿易交渉を終えた」と述べ、「大規模な石油埋蔵量を開発するためにパキスタンと協力し、いつかインドに石油を販売することになるかもしれない」と発言しました。これは、インドと対立関係にあるパキスタンを前面に出すことで、インドを牽制し、圧力をかけ続ける意図があると見られています。
インドは、その地政学的な重要性と強固な内需経済を背景に、国際社会において独自の道を歩む姿勢を明確にしています。米国の度重なる要求にも関わらずロシア産原油の輸入を続けるインドの態度は、国際政治・経済における多極化の進展を象徴する出来事と言えるでしょう。今後、米印関係、そしてロシアとの関係がどのように展開していくのか、その動向が注目されます。
参考文献
- ニューヨークタイムズ (NYT) 2024年8月2日付報道
- AP通信 2024年8月1日付報道
- 聯合ニュース 2024年8月4日付報道