在日コリアンの「国籍問題」:張本勲氏と李相日監督が示す民族とアイデンティティの複雑さ

「日本プロ野球の伝説」張本勲氏は、「国籍は紙切れ1枚で変えられるが、民族の血は変えられない」と語りました。この言葉は、日本にルーツを持つ韓国・朝鮮民族、いわゆる在日コリアンが抱える、国籍と民族的アイデンティティに関する複雑な問題を深く示唆しています。彼らは生まれ育った日本で生活しながらも、時に「祖国を捨てた」と見なされるような奇妙な二重基準に直面することがあります。日本映画界の巨匠である李相日監督の事例や、張本勲氏の日本国籍取得を巡る波紋は、このデリケートな課題を改めて浮き彫りにしています。

野球殿堂入りした元プロ野球選手、張本勲氏の肖像野球殿堂入りした元プロ野球選手、張本勲氏の肖像

映画界の巨匠、李相日監督の「国籍」が問いかけるもの

今年、日本最高のヒット映画の一つとなった『国宝』の李相日監督へのインタビューに際し、配給会社から「在日関連の質問はできれば避けてほしい」との要請がありました。在日3世である李監督の国籍というデリケートなテーマについて、韓国人記者が質問することを懸念したためです。しかし、李監督自身は大学の専攻に関する質問に対し、「朝鮮総連系の朝鮮学校を卒業したため、選択できる日本の大学は多くなかった。学科に関わらず、高校までの世界とは違う風景を見たかった」と語り、自ら在日韓国・朝鮮人としての背景に触れました。日本の大学は一部を除き、朝鮮学校高等部の卒業を正規の学歴として認めていないのが現状です。

51歳の李監督は、誕生時は朝鮮学校の教師であった父親の下で朝鮮籍だったと推測されますが、現在の国籍が北朝鮮、韓国、または日本なのかは公にされていません。在日コリアンにとって国籍は、一生涯背負う「答えのない宿題」のようなものです。自ら明かさない限り尋ねないのが礼儀とされています。一つ確かなのは、李監督が日本映画界を代表する巨匠であるという事実です。彼が手掛けた3時間にも及ぶ芸術性の高い映画『国宝』は興行収入110億円を記録し、歴代の日本実写映画興行収入ランキングで2位に輝きました。これは、2003年公開の徹底した商業作品であるテレビドラマの映画版に次ぐ偉業です。

張本勲氏の日本国籍取得と在日社会の波紋

昨年末、日本の韓国人社会では、元プロ野球選手の張本勲氏(韓国名:張勲/チャン・フン)が日本国籍を取得したというニュースが大きな話題となりました。通算3000本安打という伝説的な記録を持つ彼が、80歳を超える高齢でなぜ、いつ日本国籍を取得したのかは明らかになっていません。この報せに対し、当時ある韓国人駐在員は私的な席で、「日本の差別にもかかわらず韓国国籍を守った英雄として尊敬していたが、今では日本人の張本勲だ。韓国を捨てた」と語ったといいます。これに対し、隣にいた在日韓国人は「在米同胞は市民権を取ったらお祝いのパーティーを開くのに、在日同胞が日本国籍を得たら裏切り者なのか?」と問い返しました。

1977年に韓国へ一時帰国した張本勲氏と、母・朴順分さんの写真1977年に韓国へ一時帰国した張本勲氏と、母・朴順分さんの写真

「韓国籍を捨てたら韓国人ではない」という排他的認識の壁

韓国人の間には、在日コリアンの国籍について奇妙な二重基準が存在します。日本で生まれ、生涯その国で暮らす在日韓国・朝鮮人が、いかなる理由であれ日本国籍を取得した場合、韓国籍を「捨てた」として日本人として扱おうとする傾向があるのです。在日コリアン自身も、祖国を裏切ったかのような罪悪感を抱くことがあります。日帝時代に連れてこられ、日本で解放を迎えた在日コリアンは、今や3世、4世、5世と代を重ねてきました。外国籍を持つ者として生きる不便さにもかかわらず、依然として韓国籍を持つ人々は約24万8000人、朝鮮籍の人々は約2万3000人ほどいます。しかし、「韓国籍を捨てたら韓国人ではない」という排他的な認識が、日本国籍を持つ在日コリアン(推定70万人から80万人)を韓国から遠ざけてしまう原因となっている点が大きな問題です。

国籍を超えた民族的連帯の重要性

「単一民族」という固定観念と混同されがちですが、国籍と民族は本質的に異なるものです。韓国にルーツを持つ人々が日本国籍を取得したとしても、彼らは依然として在外同胞(海外に暮らす同胞)であることに変わりはありません。日本映画界の巨匠である李相日監督も、日本プロ野球の伝説である張本勲氏も、その国籍が何であれ、紛れもなく韓民族の一員なのです。彼らの存在は、国籍という法的な枠組みを超え、民族としてのアイデンティティや文化的なつながりの重要性を私たちに問いかけています。在日コリアンの国籍問題は、単なる法的な手続きにとどまらず、歴史、文化、そして人間関係が複雑に絡み合った社会的な課題であり、より広い視野と理解を持って向き合うことが求められます。


参考文献: