ユニセフ・イノチェンティ研究所が発表する「レポートカード」(RC19)は、先進国の子どものウェルビーイングに関する最新の動向を提示しました。2022年時点のデータに基づくこの報告書で、日本は36カ国中14位と総合順位を前回から上げましたが、特に注目されるのは「精神的幸福度」の動向です。この指標は改善を見せたものの、依然として低い順位に留まっており、その背景には複数の要因が指摘されています。本稿では、東京都立大学の阿部彩教授の解説を交え、日本の子供たちの精神的幸福度に関する深層を探ります。
ユニセフ報告書RC19が示す日本の子供の精神的幸福度スコア
世界的傾向と日本の総合評価
RC19の分析によると、世界的に新型コロナウイルス感染症パンデミックが学力に与えた影響は大きく、コロナ禍前のRC16と比べて学力が低下する傾向が見られます。特に休校期間が長かった国ほど学力低下が顕著で、デジタル化と生活様式の変化が学力格差に影響したと考えられます。その中で日本は総合順位を14位に上げました。
「精神的幸福度」の改善と真の課題
前回RC16でワースト2位(38カ国中37位)だった日本の「精神的幸福度」は、RC19では32位へと上昇しました。この指標は「生活満足度が高い15歳の割合」と「15〜19歳の自殺率」で評価されており、特に日本は調査対象国の中で唯一、生活満足度が前回の62%から71%へと向上した国です。阿部教授は、この改善は喜ばしいものの、元々が低かったため、世界の平均値に近づいたに過ぎないと指摘します。要因としては、コロナ禍における休校期間の短さや、子どもがいる世帯の経済状況の改善などが考えられますが、日本のコロナ対応が他国より特別に優れていたとは断言できないとしています。
精神的幸福度を左右する要因と日本特有の課題
RC19は、いじめ経験、ソーシャルメディア利用頻度、そして親との会話の頻度が子どもの生活満足度と強く関連することを指摘しています。この点で、日本には顕著な課題が見られます。特に、親との会話の頻度においては、日本は調査対象国の中で最も低い値を示しており、中高生と親との間にコミュニケーションの課題があることが浮き彫りになりました。いじめに関しては、対象国の中で3番目に少ないとされていますが、SNSを介したいじめは依然として多く、ソーシャルメディアの利用頻度についても詳細な順位は示されていませんが、現代の子どもを取り巻く環境における大きな要素として対策の強化が必要です。子供たちの精神的幸福度を真に高めるためには、これらの課題への継続的な取り組みが不可欠です。
ユニセフRC19は、日本の子供の総合的ウェルビーイング改善と、依然低い「精神的幸福度」という二面性を示しました。生活満足度の向上は評価されるものの、親子のコミュニケーション不足、いじめ、ソーシャルメディア利用の問題は心の健康を阻害する主要因です。今後、子供たちが精神的に豊かに成長できる社会環境の実現には、これらの課題への多角的な対策が不可欠となるでしょう。
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