現在、ドナルド・トランプ米大統領(79)が就任以来「最大の危機」に直面しています。全米を揺るがす大規模な性的人身売買事件、通称「エプスタイン事件」の“顧客リスト”に現職大統領の名前があるとの疑惑が浮上し、政権を直撃。これにより、これまで強固だったトランプ氏の岩盤支持層からの離反を招き、その政治基盤を揺るがしています。このスキャンダルは、単なる法的な問題に留まらず、米国の政治情勢に大きな影響を与えつつあります。
「エプスタイン事件」の核心とトランプ氏への疑惑
「エプスタイン事件」とは、2019年に勾留中に自殺した米国の富豪ジェフリー・エプスタイン(享年66)が、数十人に及ぶ未成年少女への性的搾取や性的人身売買のあっせんを行った罪で起訴された一大スキャンダルを指します。この事件は、関係者の広範なネットワークが指摘され、政界や財界の著名人の関与が噂されてきました。
国際ジャーナリストの山田敏弘氏は、この事件とトランプ氏の関連について解説します。「昨年の大統領選でトランプ氏は『エプスタイン事件を徹底的に捜査し、全ての捜査資料を公表する』と公言していました。しかし今年7月に入り、政権は突如として事件資料の非公開を決定したのです」。資料には、少女たちによる性的人身売買の顧客リストが含まれていると指摘されており、この非公開決定に対し、「大統領自身の名前がリストにあるため、公開できないのではないか」という憶測が広く流布しています。
支持率急落と「MAGA」層の亀裂
疑惑が浮上して以降、トランプ大統領は、日米関税交渉の電撃合意の成果をアピールしたり、公民権運動指導者マーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺事件に関する機密文書を遺族の反対を押し切って公開したり、さらにはバラク・オバマ元大統領を国家反逆罪で告発するなど、国民の関心を他にそらそうと必死の様子を見せています。
しかし、こうした試みも虚しく、トランプ氏の支持率は第2次政権下で最低となる37%まで下落しています。アメリカ政治・外交が専門の同志社大学大学院教授、三牧聖子氏はこの支持率下落の理由について、今回の疑惑を機に、MAGA(Make America Great Again)と呼ばれるトランプ氏の岩盤支持層内で「トランプ離れ」が起きていることを指摘します。
Qアノンと「ディープステート」の陰謀論
MAGA層の中には、陰謀論を信じる「Qアノン」の信奉者が多く含まれています。彼らはもともとエプスタイン事件に強い関心を示していました。Qアノンは、「アメリカ政府は『ディープステート(闇の政府)』によって裏で操られており、その中心には児童による性的人身売買ネットワークを持つ民主党エリートらが含まれる」という、荒唐無稽とされる世界観を信奉しています。
三牧氏は、Qアノンにとってのこの事件の重要性を説明します。「ビル・クリントン元大統領とも親交があったエプスタインの事件は、彼らにとってディープステートの腐敗を象徴するスキャンダルとして認識されています。つまり、その顧客リストにトランプ氏の名前が載っているということは、『トランプも闇の政府の一員だった』ことを意味しかねません」。これは一部のMAGA層にとって、到底受け入れがたい「裏切り行為」と映っており、彼らのトランプ氏への信頼を大きく損なう結果となっています。
ドナルド・トランプ大統領の演説風景、エプスタイン事件疑惑の中での表情
結論
エプスタイン事件に絡む疑惑は、ドナルド・トランプ大統領にとって、単なる法的な問題に留まらない深刻な政治的危機をもたらしています。事件資料の非公開決定が引き起こした憶測は、彼の支持率を急落させ、特に陰謀論を信じるQアノンを含むMAGA層からの信頼を根底から揺るがす事態となっています。この「トランプ離れ」の動きは、次期大統領選を控えるトランプ氏にとって、かつてない政治的難局であり、今後の米国政治の動向に長期的な影響を与える可能性を秘めています。