ダライ・ラマ後継者問題、中国が「最終決定権」を再主張しチベット統治の正当性を強調

チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世の後継者選定を巡り、中国政府とダライ・ラマ側との間で明確な対立が生じています。中国・チベット自治区の当局者は、後継者決定に関する「争う余地のない最終決定権」は中国政府にあると改めて表明し、独自の立場の正当性を強く訴えかけています。この動きは、国際社会が注視するチベット問題において、中国が支配を強化する姿勢を鮮明にするものです。

ダライ・ラマ14世、転生制度の存続と「外部干渉排除」を表明

ダライ・ラマ14世は先月、自身の死後もチベット仏教の伝統的な「転生」制度を存続させる意向を示しました。さらに、後継者の選出プロセスにおいては「他者が干渉する権限はない」と明言し、中国政府による介入を牽制する姿勢を示していました。これは、チベット仏教徒にとって極めて重要な精神的指導者の継承を、政治的な影響から守ろうとする強い意志の表れと言えます。

ダライ・ラマ14世の後継者問題に関するニュースを報じるTBS NEWS DIGのロゴ画像ダライ・ラマ14世の後継者問題に関するニュースを報じるTBS NEWS DIGのロゴ画像

中国政府、後継者選定の「最終決定権」を強調

ダライ・ラマ14世の発言に対し、中国側は強く反発しています。チベット自治区の成立60周年を控えた会見で、同自治区の高官は「中国政府はダライ・ラマの転生問題において、争う余地のない最終決定権を持っている」と断言しました。

その上で、後継者探しは「中国国内で代わりになる人物を探し出し、政府の承認を得るという原則を守らなければならない」と述べ、中国の法律や規則に従う必要があるとの見解を改めて強調しました。中国政府は、ダライ・ラマを「チベットの独立をたくらむ分離独立主義者」と厳しく批判しており、今回の発言は、後継者問題を通じてダライ・ラマの権威を否定し、チベットへの統制を強化する狙いがあると考えられます。このため、今後、双方の対立がさらに深まる可能性も指摘されています。

チベット自治区の経済発展と統治の正当性アピール

同じ会見で、チベット自治区の高官は「チベットでは経済が発展し、貧困から完全に脱却した」と述べ、習近平指導部が推進する貧困対策と経済成長の成果を強調しました。これは、中国共産党によるチベット統治が地域にもたらしたとされる「進歩」を国内外にアピールするものであり、統治の正当性を主張する意図が明確です。また、自治区成立60周年を祝う式典を開催することも明らかにされ、中国政府によるチベット統治の「輝かしい成果」を喧伝する機会と位置付けられています。

まとめ

ダライ・ラマ14世の後継者選定を巡る問題は、チベット仏教の精神的独立と中国政府によるチベット統治権の主張が正面から衝突する、国際政治における重要な局面を形成しています。中国側は、後継者選定への絶対的な決定権を主張し、チベット自治区における「発展」を強調することで、その統治の正当性をアピールしています。しかし、この主張はダライ・ラマ側の意向と深く対立しており、今後の両者の関係、ひいてはチベットの将来に大きな影響を及ぼすことが予想されます。国際社会は、この複雑な問題の行方を引き続き注視していくこととなるでしょう。


参考文献: