今回の参院選で大幅に議席を伸ばした参政党が掲げる「日本人ファースト」というスローガンは、その排外主義的な主張が根強く批判されています。なぜこうした懸念のある主張が有権者に支持され、その背景には何があるのか。そして、この動きが今後の日本社会にどういった影響を与えるのか。外国にルーツを持つ識者の見解を通して、その実態と課題を深く掘り下げます。
人材育成コンサルタント・辛淑玉氏が警鐘「『日本人ファースト』は大衆暴力に火を放つ」
参政党の支持拡大を「一時のブーム」と軽視する見方もありますが、人材育成コンサルタントの辛淑玉氏は、最も恐ろしいのは「日本人ファースト」というスローガンが「大衆の暴力」に火をつけたと警鐘を鳴らします。その被害は外国人から始まり、やがて国内のマイノリティへと広がっていくと指摘します。世間には「良い外国人」と「悪い外国人」を分けようとする傾向がありますが、そのような線引きはすぐに意味を失うと辛氏は強調します。
参政党が「日本人ファースト」のスローガンを掲げる街宣車。東京・新宿で撮影され、その排外主義的な主張が社会に与える影響が懸念されている。
今回の選挙期間中にも、アジア系の外国人から「街を歩けなくなった」という恐怖の相談が多数寄せられたと言います。外国人を差別する主張が公に連呼される中で、民族名で生活している人々は、病院で名前を呼ばれることや、電話で何かを注文することにさえ恐怖を感じるという現実がこの国に存在することを、どれだけの人が想像できるでしょうか。
辛氏は、「日本人ファースト」はこれまでの差別的な言葉とは質が異なると分析します。これは「私たち一番だよね」「私たちがこんなに苦しいのは外国人のせいだ」という、大衆の連帯感を再確認させ、可視化するキーワードとして機能したのです。差別や排除を正義と信じる人々が集い、権力と結びつくこの構図は、ナチス・ドイツの初期と極めて似ていると警鐘を鳴らしています。
人材育成コンサルタントの辛淑玉氏。参政党の「日本人ファースト」スローガンがもたらす大衆暴力と外国人差別について警鐘を鳴らす。
マイノリティが抱く恐怖と社会の責任:政治、メディア、SNSの影響
このような事態に至った背景には、政治の重い責任があると指摘されています。特に、安倍政権下で排外主義の種がまかれ続け、参政党がそれを引き継いだとも言えます。そして今や、参政党でさえ制御不能なレベルで、差別の炎が社会に広がりつつあるのです。
東京都港区で行われた参政党の街頭演説に集まる人々。その支持拡大は、新たな形での差別が社会に流通するきっかけとなった。
メディアの役割不足も深刻です。評論に終始し、現場の声を拾わず、差別におびえる子どもたちの姿をテレビで見る機会はほとんどありません。声を上げたマイノリティがさらに叩かれるという構造が放置されており、この差別の連鎖を止められるのは、日本社会で多数派を占める日本人だけであると強調されます。
参政党は交流サイト(SNS)などの新しいメディアを巧みに使いこなし、洗練された形で差別を社会に流通させてしまいました。これは、これまでリベラル勢力がこうした動きに対して十分な対応を取ってこなかったつけが回ってきたとも言えます。このように広く、軽やかに、暴力が日常化される時代は過去に類を見ません。この状況にあらがい続けることが、今、日本社会に最も強く求められています。
「日本人ファースト」を巡る議論は、単なる政治的スローガンに留まらず、日本社会のあり方、多様性への向き合い方、そして民主主義の健全性そのものに深く関わる問題です。排外主義的な主張がもたらす「大衆暴力」の火種を消し、マイノリティが安心して暮らせる社会を築くためには、私たち一人ひとりがこの問題に真剣に向き合い、行動を起こすことが不可欠です。
参考文献
- 共同通信