大分県、記録的少雨で水不足深刻化:宇佐平野の稲作に迫る危機

大分県北部では、7月の降水量が平年のわずか1割程度にとどまる記録的少雨に見舞われ、深刻な水不足が広範囲に影響を及ぼしています。観測史上最も早い梅雨明けがこの状況をさらに悪化させており、今後も少雨が続く可能性が高いと予測されています。十分な水を必要とする稲の「出穂期」を迎え、県内最大の穀倉地帯である宇佐平野(宇佐市)では、既に痛々しい光景が目に入り始めています。この異常な水不足が、日本の食料供給を支える稲作にどのような影響を与えるのか、現地からの報告を詳述します。

記録的少雨と深刻な水不足の実態

宇佐平野は、周防灘に注ぐ駅館川などの河口付近に広がる広大な田畑で、コメや麦の生産が盛んな地域です。宇佐市によると、市内の水田面積は6810ヘクタールに上り、これは県全体の約2割を占める、大分県にとって非常に重要な農業地帯です。

稲作において、8月上旬の出穂期は、イネの根元を水に浸らせるために大量の水を必要とする最も重要な時期の一つです。しかし、今年は梅雨明け以降の記録的な少雨により、農業用水の不足が極めて深刻化しています。7月下旬ごろからは、一部の田んぼでは水が行き渡らなくなり、地表は乾燥し、網目のようにひび割れが広がる状況となっています。

宇佐平野の稲作への影響:現場の声

水不足の影響は、宇佐平野の各地で農家を苦しめています。特に下流地域では、その深刻さが顕著です。

今仁地区の窮状:枯渇の危機

中津市との境界に近い宇佐市今仁地区では、例年約30ヘクタールの田んぼで食用米と家畜の餌となる飼料米を育てています。この地区で農業用水を管理する山田武則さん(78)は、悲痛な思いを口にしています。「少しでも良いから水がほしい。このままだと、あと10日ほどで全て枯れてしまうだろう」。今後、たとえ雨が降ったとしても、稲が出穂しない可能性も指摘されており、「これでは一銭にもならない。今後は農業をやめる人が増えて食糧難になるのではないか」と、日本の食料自給率への危機感を募らせています。

大分県宇佐市今仁地区、記録的少雨によりひび割れた水田の様子大分県宇佐市今仁地区、記録的少雨によりひび割れた水田の様子

宮熊地区の奮闘と落胆:成長阻害

海に近い宇佐市宮熊地区でも同様の状況が見られます。7月中旬ごろから水が足りない状態が続き、深さ10センチほどのひび割れがいたるところに発生しています。9月上旬の収穫を見込む飼料米は、本来よりも穂数が少なく、背が伸びないなど、深刻な成長阻害に見舞われています。

このため、宮熊地区では、排水をくみ上げて用水路に流すためのポンプを4台設置したほか、地区を四つのグループに分けて順番に水を分配する仕組みを導入するなど、必死の対策を講じています。しかし、コメ農家の磯辺雄二さん(69)は「これほどまで水が少ないのは初めて。あと1カ月で背を2倍にしなければならないが、どう頑張っても難しいだろう」と、収穫への期待を失いつつある状況を語っています。

下流地域の課題と水源ダムの逼迫

今仁地区と宮熊地区に共通するのは、取水源の農業用ダムから最も下流部に位置している点です。ある水利関係者は、「水は上流の農家から取水するため、水が下流まで届かない。上流の農家の気持ちも分かるが、1週間に1回でも良いから水を送ってほしい」と、水利権と公平な水分配の難しさを訴えています。

さらに、取水源となる農業用ダム自体も逼迫した状況にあります。駅館川水系の日出生、日指、香下の各ダムでは、4日から3割の放流制限を開始しましたが、7日午前9時時点で貯水率はいずれも40%を下回っています。別の水利関係者は、「長い目で見ると、気候変動に合わせてダムの増設も必要ではないか」と、水インフラのハード面での整備を求めています。

短期的な降雨の影響と今後の見通し

7日には県北部で10~20ミリの降雨が観測されました。しかし、今仁地区の山田さんはこの程度の雨では根本的な解決にはならないと指摘します。「地表は多少湿ったが、2~3日たてば元の状態に戻るだろう」と語り、短期的な降雨が状況を劇的に改善する見込みは薄いことを示唆しています。

結論

大分県北部を襲う記録的少雨は、宇佐平野の稲作に壊滅的な影響を与え、農家の生活だけでなく、日本の食料供給にも暗い影を落としています。下流地域の水不足、水源ダムの貯水率低下、そして短期的な降雨では解決できない現状は、気候変動への適応と、より持続可能な水管理システムの構築が喫緊の課題であることを浮き彫りにしています。この危機的状況に対し、行政、水利関係者、そして農家が一体となり、具体的な対策を講じることが強く求められています。

参考資料