“第4の肉”羊肉に潜む危険:生食による住肉胞子虫食中毒の実態

飲食店のレビューサイトで「ジンギスカン」を検索すると、全国で1,500店以上がヒットします。インド・パキスタン料理店や中華料理店を含めれば、羊肉を提供する店舗はさらに膨大な数に上るでしょう。貿易統計によれば、2024年の羊および山羊肉の輸入額は261億円に達し、10年前の約1.5倍。今や羊肉は牛豚鶏に次ぐ“第4の肉”と称されるほど、日本の食卓に深く浸透しています。その人気の背景には、牛肉よりも安価でヘルシーなイメージ、さらにはL-カルニチンなどの脂肪燃焼を助ける成分が豊富に含まれていること、そして肉の処理技術の向上による臭みの減少が挙げられます。

しかし、その人気の陰で、特に生のラム肉を使用したユッケなどの非加熱調理を提供する店が増える中、新たな健康リスクが浮上しています。食品の安全性を巡る現状に対し、警鐘を鳴らす報告が専門機関からなされました。

羊肉に潜む「住肉胞子虫」の脅威

2024年6月14日、東京慈恵会医科大学で開催された「日本臨床寄生虫学会大会」において、「東京都内で発生したヒツジ肉に寄生する住肉胞子虫が原因と疑われた有症事例」と題する発表が行われました。住肉胞子虫とは、主に鹿や馬、ジビエ(野生鳥獣肉)などの筋肉に生息する寄生虫の一種です。多くの場合、体内で「シスト(嚢胞)」と呼ばれる状態で潜んでおり、これを誤って生で摂取してしまうと、激しい嘔吐、腹痛、下痢といった深刻な症状に見舞われることがあります。種類によっては、摂取した人の筋肉内へ寄生虫が移動したという報告が東南アジアで確認されている事例もあり、そのリスクは決して軽視できません。

適切に加熱されたジンギスカン料理。食中毒予防には十分な加熱が重要です。適切に加熱されたジンギスカン料理。食中毒予防には十分な加熱が重要です。

実態調査と専門家からの警告

この有症事例を報告したメンバーの一人である東京都健康安全研究センターの村田理恵氏によると、住肉胞子虫が原因とみられる食中毒事例は、2023年と2024年の合計で4例確認されています。これらの事例は生ラムのユッケなどを摂取した後に発症したもので、客の食べ残しからではなく、店舗が提供していた他の参考品肉から住肉胞子虫が検出されました。これにより、住肉胞子虫が原因であると断定されたわけではないものの、生肉を摂取すれば発症する可能性は十分にあります。

村田氏は、住肉胞子虫は適切に冷凍処理された肉であればリスクは低いとしながらも、現在の日本では生食が許可されている肉は牛肉、馬肉、馬レバーに限られていることを強調し、生のラム肉の提供については疑問を呈しています。食品安全の観点から、加熱をせずに提供される羊肉料理には、消費者が十分に注意を払う必要があります。

ジビエを含む生肉全体への注意喚起

近年では、真っ赤な鹿肉のたたきのように、中心部まで火が十分に通りきっていないジビエ料理が当たり前のように提供されているケースも見受けられます。生肉を巡るリスクは、食肉の種類によって大きく異なります。例えば、マグロの刺身のように生で安全に食べられる魚介類とは異なり、ジビエや一部の畜肉には寄生虫や細菌などの食中毒リスクが内在しています。これらの肉を摂取する際は、加熱の重要性を認識し、安全な調理法を徹底することが不可欠です。

結論

“第4の肉”として親しまれる羊肉ですが、特に生食には住肉胞子虫をはじめとする寄生虫による食中毒のリスクが潜んでいます。東京都内で発生した有症事例は、この危険性を改めて浮き彫りにしました。消費者としては、生の羊肉料理を提供する店舗の選択に慎重になり、また自宅で調理する際には、肉の中心部まで十分に火を通すことが最も確実な予防策となります。食の多様性が広がる中で、提供される料理のリスクを正しく理解し、安全な食生活を送ることが何よりも重要です。

参考文献