和洋菓子大手シャトレーゼ(甲府市)は今年、休業手当の不払い、違法残業、下請法違反の疑いといった複数の不祥事が相次いで発覚し、社会的な注目を集めました。これを受け、古屋勇治社長が産経新聞のインタビューに応じ、会社の急成長がコンプライアンス体制の脆弱さを招いたとの認識を示しました。同社長は、信頼回復と企業基盤の強化を最優先するため、新規出店を大幅に削減する「成長を止める戦略」を進めていく方針を明らかにしました。
「急成長がバランスを崩した」:相次ぐ不祥事への謝罪と認識
古屋社長は一連の不祥事について「重く受け止めている。これまで支持してくれた全てのステークホルダーに心配をかけたことを深くおわびしたい」と述べ、改めて陳謝しました。その上で、「急成長してきた中で、会社がバランスを崩した」と、問題発生の背景には急激な事業拡大があったとの見解を示しました。
シャトレーゼは2014年度の売上高430億円から、2023年度には約3倍の1313億円に達し、店舗数も2.2倍に増加しました。特に新型コロナウイルス禍においても、郊外店舗が多かったため自治体の休業要請の対象外となることが多く、営業を継続できたことが存在感を強め、業績拡大に繋がりました。しかし、古屋社長はこうした急成長の中で「会社の基盤がついていかなかった」と反省し、コンプライアンスが不十分になっていたことを認めました。
シャトレーゼの古屋勇治社長が不祥事に対する「成長停止戦略」について語るインタビュー風景
新規出店抑制と組織改革:持続的成長のための「成長停止戦略」
古屋社長は、「社会的責任をしっかり果たしていく企業」となるためには、一度成長を止める戦略が必要であると強調しました。具体的には、新規出店を不祥事発覚前から準備していた店舗に限定し、今年度前半は30店舗程度に抑制。後半はほとんど出店しない計画であり、「新規出店の話があっても凍結している」と述べました。
組織体制の面でも改革を進めており、既存の品質保証部に加え、新たに「労働安全推進部」を発足させました。これにより、全社的に安全、品質、コンプライアンスをチェックする態勢を拡充しています。また、社内でのコンプライアンス教育の見直しに加え、弁護士による年2回の点検作業を実施し、外部コンサルタントに改革への評価を求めていくとのことです。
基盤強化に注力する期間については、「少なくとも2年間とみているが、期限は切らない」とし、長期的な視点で取り組む姿勢を示しました。この期間、顧客需要に対する供給力不足に陥る可能性も否定せず、「量が少なくなることもあり得る」と理解を求めました。
明るみに出た具体的な不祥事の内容
シャトレーゼを巡る一連の不祥事は、多岐にわたります。今年3月には、製造委託した包装資材などを正当な理由なく受け取らなかった行為が下請法違反に当たるとし、公正取引委員会から製品の受け取りと委託先への保管・運送代金の支払いを勧告されました。
さらに5月には、出入国在留管理庁が特定技能制度で雇用していた外国人労働者に対し、休業手当を支払わなかったとして改善命令を発出。同時期には、甲府労働基準監督署が違法な時間外労働をさせた疑いで、労働基準法違反の疑いで書類送検に踏み切っています。
信頼回復と持続可能な企業への転換
シャトレーゼの古屋社長は、急成長の陰で疎かになったコンプライアンス体制の立て直しと、企業としての社会的責任の徹底を最重要課題と位置付けています。「成長を止める戦略」は、短期的な業績よりも、持続可能な企業としての基盤を強固にするための痛みを伴う選択です。今回の組織改革と意識改革を通じて、シャトレーゼが顧客や社会からの信頼を回復し、より健全な企業として再出発できるかが注目されます。
参考文献
- 産経新聞
- Yahoo!ニュース