大阪を拠点とする社員15名の企業「ヘソプロダクション」が、そのユニークなビジネス戦略で急速な成長を遂げています。トランプ大統領に贈呈された「金色のミャクミャク貯金箱」や、社会現象となった「忖度まんじゅう」など、数々のヒット商品を世に送り出し、年商24億円から今年は50億円に迫る勢いを見せています。この驚異的な成功の裏には、代表である稲本ミノル氏(49)の、常識を覆す「第一印象」との向き合い方と、20年以上にわたる緻密な「ハガキ戦略」がありました。見た目からくる「生意気そう」「なんだこいつ」といった初対面の印象を、いかにして信頼へと変えていったのか。その秘訣に迫ります。
異色の経営者、稲本ミノル氏の「第一印象」
株式会社ヘソプロダクションの代表を務める稲本ミノル氏は、初対面の人々に強烈な印象を与えることで知られています。グラサン、ヒゲ、そしてユニセックスなコムデギャルソンのスーツという独特のスタイルは、多くの人に「尖っている」「生意気そう」といった第一印象を与えがちです。営業先や取引先でも、その外見からくるイメージが先行し、ネガティブな反応を受けることが少なくありませんでした。特に20代の頃は、「見た目や雰囲気で機会を失うことが多かった」と、稲本氏自身が振り返っています。
ところが、不思議なことに、そんな稲本氏のもとには、日本を代表する大企業の社長たちが次々と相談に訪れるのです。一体なぜ、彼はこれほどまでに厚い信頼を築き上げることができたのでしょうか。その答えは、彼が20年以上にわたって継続してきた、累計20万通にも及ぶ「手書きのハガキ」にありました。
ヘソプロダクション代表の稲本ミノル氏がインタビューに応じる様子。彼のトレードマークであるグラサンとヒゲ、コムデギャルソンのスーツ姿が、第一印象戦略の重要性を物語る。
20年で20万通:ハガキ戦略誕生の背景
稲本氏がこの独自のハガキ戦略を始めたのは、28歳頃のことでした。名刺交換をした相手全員に、手書きのハガキを送ることを習慣化したのです。現在までにその枚数は20万通を超え、1週間で100枚以上の名刺交換をこなす彼の多忙な日々を考えると、その継続力には驚かされます。ハガキを書く時間は、主に夜間や土日、誰もいなくなった静かなオフィスで、彼は黙々とペンを走らせています。
この戦略を始めた根源には、「第一印象の悪さ」という彼自身の悩みが深く関わっていました。表面だけを取り繕うのではなく、ありのままの自分、つまり彼らしいファッションやスタイルを貫きたいという強い思いがあったからです。しかし、その個性がゆえに誤解されやすいという現実。「自分はこういう人間です」と最初に示す方が、結果的に長期的な信頼関係を築けると考えた稲本氏がたどり着いたのが、「第一印象で判断された後に、手紙で自分の内面、つまり『ちゃんとした人間である』ことを伝える」という逆転の発想でした。
ギャップを活かす:ハガキに込められた「人間性」
稲本氏が送るハガキの内容は、一人ひとりの相手に合わせて細やかに調整されています。まず共通しているのは、出会いへの感謝の気持ちです。新規の顧客であれば、「今後、このようなことに全力で貢献します」と具体的なコミットメントを綴り、銀行関係者には「未熟な経営者なので、ぜひ色々と教えてください」と謙虚な姿勢を示します。
文面も、「拝啓」のようなかしこまりすぎた表現は避け、「ありがとうございます」と親しみやすい言葉遣いを心がけています。もし相手が転職したばかりであれば、「新しい環境で頑張ってくださいね」といった労いの言葉を添えるなど、人間味あふれるメッセージが特徴です。
信頼構築への道:ハガキがもたらしたビジネス変革
このハガキ戦略がもたらした効果について、稲本氏は「めちゃくちゃ仕事がやりやすくなった」と力強く語っています。彼の独特な外見と、手書きの丁寧なハガキというギャップが、相手に予想外のポジティブな印象を与えるのです。「あいつ、生意気そうに見えるけど、実はちゃんとしてるんだな」という気づきが、ネガティブな第一印象を覆し、好意的な評価へと変貌させました。
さらに、ハガキで示した丁寧な姿勢が、日々の仕事への真摯な取り組みと一致することで、顧客や取引先からの信頼はより一層深まっていきました。このギャップ戦略こそが、ヘソプロダクションの飛躍的な成長を支える、強力な人脈構築の秘訣だったのです。
稲本ミノル氏の事例は、見た目や表面的な印象だけでなく、その裏にある真摯な人間性や継続的な努力こそが、ビジネスにおける真の信頼関係を築き、最終的な成功へと導くことを示唆しています。