【台北=田中靖人】台湾の総統選と同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選で、台北3区が注目選挙区の一つになっている。初代総統、蒋介石のひ孫で野党、中国国民党の「明日の星」とされる若手現職に対し、与党、民主進歩党は若手の精鋭候補を擁立し政権与党の幹部が連日、応援に入る。柯文哲台北市長率いる台湾民衆党も候補を立てて「第三勢力」の形成を目指しており、象徴的な構図となっている。
■民進・38歳呉氏
「中国は信用できない。(香港と異なり)台湾には選択肢がある。若者全員で立ち上がり未来を守ろう」
民進党の新人、呉怡農氏(38)は9日昼、会社員が行きかう商店街でこう呼びかけた。呉氏は米国生まれで米エール大卒。米金融大手の香港支店で勤務した後、台湾の陸軍特殊部隊に入隊した華やかな経歴を持つ。伯父は民進党の最大派閥「新潮流」派の創設メンバーで、党秘書長(幹事長)を何度も経験した大物だ。いわば「民進党エリート」の呉氏が9月に落下傘候補として出馬を決めて以来、同区は蔡英文総統ら政権与党の幹部が次々と応援に立つ重点区となった。
呉氏は、国民党が11月に発表した比例名簿の上位の「当選圏内」に、親中派の元陸軍中将が入ったことを問題視。元中将が当選すれば「外交・国防の機密に触れる委員会に入り、台湾の安全保障は大きな危機にさらされる」として、元中将の落選運動を率いている。比例名簿は拘束式のため、実際に落選させられる可能性は極めて低いが、国民党の現職にも「台湾側に立て」と賛同を求めている。研究者の父親が蒋介石の息子、蒋経国元総統に解雇されたという趣旨の発言をし、年代の齟(そ)齬(ご)を指摘されて釈明する場面もあった。