かつては全面核戦争の危機さえ囁かれたインドとパキスタンの対立の火種は、今なおくすぶり続けているようだ。核保有国パキスタンのアシム・ムニール陸軍参謀長が、「国家存亡の危機に直面すれば世界の半分を道連れにする」と発言したと報じられ、長年対立するインドのパンカジ・サラン元国家安全保障担当次官はこれを「軽率かつ危険な行為」と厳しく非難した。彼の発言は、インドとの間に個人的な恨みや深刻な問題を抱えているかのようであり、「火遊びをしているような人物」に見えるとサラン氏は指摘している。
パキスタン軍参謀長による「世界の半分を道連れ」発言の波紋
今年5月にカシミールで観光客が襲撃され死亡した事件をきっかけに激しい衝突が起きていた中、今回の発言はインドとパキスタン間の高まる緊張を明確に示している。インド側はカシミールでの事件にパキスタンが関与したと非難したが、パキスタンはこれを否定した。
パキスタンのニュースサイトARYニュースによると、ムニール参謀長は8月10日、米フロリダ州タンパで開かれたパキスタン人コミュニティの集会で演説したとされている。インドのニュースサイト「ザ・プリント」は、この場でムニールが「我々は核保有国だ。もし国家存亡の危機に直面すれば、世界の半分を道連れにする」と述べたと報じた。しかし、ロイター通信によれば、パキスタン当局はこの発言の存在自体を否定している。
パキスタンのアーシム・ムニール陸軍参謀長が講演中に発言する様子。核保有国としての発言がインドとの関係に緊張をもたらしている。
さらに、ムニールはインドがインダス川に建設するあらゆるダムを破壊するとも脅したという。これは、インドがジャンムー・カシミール州パハルガムで起きた襲撃事件を受け、水資源共有協定を停止したことへの反応と見られる。
米国滞在中の「軽率な発言」が示すもの
サラン氏は、ムニールが友好国である米国に滞在中にこのような発言をするほどの自信を持っていることに懸念を示した。「パキスタンが米国からどの程度の容認や黙認を得ているのか、あるいは得られると考えているのかという疑問がインド国内では沸き上がっている」と彼は語る。「これは不必要で、挑発的で、全く根拠のない発言だ。このような発言が続けば、米国の利益にもインドの利益にもならない。米国にはムニールの発言の意図を見抜いてもらうことが重要だ」と強調した。インド外務省は、この発言を「核による脅迫」と表現している。
緊張が高まる米印関係と地政学的影響
ムニールの核関連の発言は、米印関係が緊張している中で行われた。8月6日、ドナルド・トランプ米大統領は、インドがロシア産原油の購入を続けていることを理由に、インドからの輸入品に50%の関税を課すと発表した。また、2025年5月のインド・パキスタン停戦についても、インドは二国間の決定だと主張しているにもかかわらず、トランプ自身が自身の仲介のおかげだと繰り返し主張するなど、意見の食い違いが見られる。
過去2か月間でムニールが2度も米国で歓待されている状況下での上述の発言は、インドにおける米国への不満をさらに増幅させる可能性が高い。すでにインドは、長らく米国と共通の敵と見なしてきた中国やロシアとの関係を強化し始めている。この一連の動きは、国際的な地政学の変動と、南アジア地域の複雑なパワーバランスを示唆している。
結論
パキスタン軍参謀長の核に関する発言は、インドとパキスタンの間にくすぶる緊張を再燃させ、両国間の対立が依然として深刻であることを浮き彫りにした。同時に、この発言は米印関係にも波紋を広げ、すでに冷え込みつつある両国の外交関係にさらなる影を落としている。インドが中国やロシアとの関係を強化する動きは、国際社会における新たな同盟関係の形成や地政学的シフトの可能性を示唆しており、今後の国際情勢の動向が注目される。