米アラスカ州のエルメンドルフ・リチャードソン統合基地で8月15日、ドナルド・トランプ米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領の首脳会談が開催される予定だ。この注目される会談は、ウクライナ戦争の終結に向けた協議を目的としており、国際社会の関心が集まっている。両首脳の会談は、アラスカ最大の都市アンカレッジの北端に位置する米軍施設で行われ、ホワイトハウス関係者によると、この基地が両首脳会談に必要な安全保障上の条件を満たしているという。夏の観光シーズン中であるため、急遽設定されたこの会談に適した他の選択肢はほとんどなかったとされる。トランプ氏の要請によりこれまで3度の米露協議が行われたが、和平に向けた具体的な進展は見られていない。本稿では、会談場所となる基地の情報と、今回の歴史的な会談で予想される内容を詳しく解説する。
エルメンドルフ・リチャードソン統合基地とは
エルメンドルフ・リチャードソン統合基地は、冷戦時代にまで遡る豊かな歴史を持つ、アラスカ州最大の軍事基地である。その敷地面積は6万4000エーカー(約260平方キロメートル)にも及び、アメリカの北極圏における軍事即応態勢の要となっている。雪を頂いた山々、氷に覆われた湖、そして息をのむような美しい氷河に囲まれたこの基地は、冬季には氷点下12度まで気温が下がることもある過酷な環境に位置する。しかし、両首脳が訪れる15日の気温は、比較的穏やかな16度と予想されている。
米アラスカ州エルメンドルフ・リチャードソン統合基地の全景。雪山と氷河に囲まれた広大な敷地が特徴で、トランプ大統領とプーチン大統領の会談場所となる。
トランプ氏は2019年の第1期在任中に同基地を訪れた際、この基地の部隊を「我が国の最後のフロンティアにして、アメリカ防衛の第一線で任務に就いている」と称賛した。基地には3万人以上が居住しており、これはアンカレッジ市の人口の約10%を占める規模だ。1940年に建設されたこの基地は、冷戦期にはソヴィエト連邦からの脅威に備えるための重要な航空防衛拠点および中央指令基地として機能した。1957年の最盛期には、200機の戦闘機と複数の航空管制・早期警戒レーダーシステムが配備され、「北米のトップカバー(上ふた)」とまで呼ばれていた。現在も、その戦略的な立地と充実した訓練施設により、基地の規模は拡大を続けている。
アラスカが会談地に選ばれた背景
アメリカは1867年にアラスカをロシアから購入しており、今回の会談には歴史的な響きがある。アラスカは1959年にアメリカの州となった。ロシアのユーリ・ウシャコフ大統領補佐官は、両国がベーリング海峡で隔てられているだけで、事実上隣接していると指摘した上で、「我々の代表団がベーリング海峡を越えて飛行し、このような重要かつ期待される首脳会談がアラスカで開催されるのは、極めて理にかなっているように思える」と述べ、アラスカでの開催の正当性を強調している。
アラスカが最後にアメリカの外交イベントの舞台となったのは、2021年3月にジョー・バイデン前大統領の外交・国家安全保障チームが、アンカレッジで中国側代表団と会談したときである。しかし、この会談は険悪な雰囲気となり、中国側がアメリカ側を「高圧的で偽善的だ」と非難する事態に発展した経緯がある。
トランプ氏とプーチン氏が会談する理由
ドナルド・トランプ氏は、ウクライナでの戦争終結に向けて積極的に動いてきたものの、これまで目立った成果は上がっていない。昨年の大統領選では、トランプ氏は就任から24時間以内に戦争を終わらせることができると公約し、また、ロシアが2022年に侵攻した際に自分が大統領であれば戦争は「決して起こらなかった」と繰り返し主張している。
トランプ氏は先月、BBCに対し、プーチン氏に「失望している」と語った。彼は不満を募らせ、プーチン氏に対し、即時停戦に応じなければより厳しいアメリカの制裁を科すと通告し、8月8日を期限に設定していた。しかし期限当日、トランプ氏はプーチン氏との対面会談を8月15日に行うと発表した。トランプ氏によると、会談に先立ち、アメリカのスティーヴ・ウィトコフ特使が6日にモスクワでプーチン氏と「非常に有意義な」協議を行ったという。
会談を前に、ホワイトハウスは今回の首脳会談が即座の停戦につながるとの憶測を抑える姿勢を示している。キャロライン・レヴィット報道官は、「これは大統領にとって傾聴の機会だ」と述べた。トランプ氏自身も11日、記者団に対し、今回の首脳会談を「探り合いの会談」と位置づけており、プーチン氏に戦争終結を促すことを目的としていると語った。
ウクライナの参加と主張
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、今回の会談に出席する予定はない。トランプ氏は11日、「彼(ゼレンスキー氏)が来てもいいとは思うが、すでに多くの会議に出席している」と述べている。ただしトランプ氏は、会談後に最初に電話をかける相手はゼレンスキー氏だと語った。また13日には、欧州主要国の首脳らがトランプ氏とオンライン会合を持ち、アラスカでの首脳会談について話し合った。
プーチン氏はゼレンスキー氏の会談からの排除を求めてきた一方、ホワイトハウスは以前、トランプ氏が3者による首脳会談に前向きだと述べていた経緯がある。ゼレンスキー氏は、ウクライナの関与なしに合意がなされた場合、それは「死んだ決定」だと強く語っている。
ロシアとウクライナ、それぞれの要求
ロシアとウクライナの双方は、戦争の終結を長らく主張してきたが、両国の要求は互いに強く対立している。トランプ氏は11日、「ウクライナのために、ロシアが占領している領土の一部を取り戻すつもりだ」と述べた。しかし同時に、「ある程度の交換や領土の変更が必要になるかもしれない」とも警告している。これに対しウクライナ側は、ロシアが掌握した地域、特にクリミアを含む領土に対するロシアの支配を容認しない姿勢を崩していない。ゼレンスキー氏は今週、領土の「交換」という考え方に強く反発し、「ロシアが行ったことに報酬を与えるつもりはない」と述べた。
一方、プーチン氏は領土要求、ウクライナの中立化、そして将来的なウクライナ軍の規模に関する主張を一切譲っていない。ロシアがウクライナへの全面的な侵攻を開始した背景には、北大西洋条約機構(NATO)が隣国ウクライナを足がかりに、ロシア国境に軍を近づけようとしているというプーチン氏の認識があるとされている。
BBCがアメリカで提携するCBSニュースによると、トランプ政権は、ウクライナの領土の一部をロシアに引き渡す停戦案について、欧州の首脳らを説得しようとしているという。協議に詳しい関係者によれば、この合意案では、ロシアがクリミア半島の支配を維持し、ドネツク州とルハンスク州から成る東部ドンバス地方を取得することが盛り込まれている。ロシアは2014年にクリミアを違法に占領し、現在もドンバス地方の大部分を掌握している。この合意案ではまた、ロシアに対し、現在一部を軍事的に支配しているウクライナ南部のヘルソン州とザポリッジャ州を放棄することを求めているとされる。
結論
アラスカでのトランプ・プーチン首脳会談は、ウクライナ戦争の膠着状態を打破し、和平への道筋をつける可能性を秘めている。しかし、双方の領土に対する要求や安全保障上の懸念は依然として大きく、会談が具体的な成果をもたらすかどうかは不透明だ。トランプ氏の「探り合いの会談」という位置づけが示すように、今回の協議は複雑な国際政治情勢の中で、関係各国の思惑が交錯する重要な場となるだろう。ウクライナの不参加も相まって、この会談がウクライナ国民にとって真に「死んだ決定」とならないよう、今後の動向が注視される。
参考資料
- BBC News (英語記事 What to know about Trump and Putin’s meeting at an Alaska military base)