日本列島を襲う猛暑は記録的な水準に達しており、8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度の最高気温を観測しました。しかし、異常気象の専門家である三重大学大学院生物資源学研究科の立花義裕教授は、私たちが実際に感じる体感温度が50度に達している可能性を指摘しています。アメダスの計測値と実際の感覚との間に存在するこの乖離は、特に都市部や幼い子どもたちにとって深刻な問題となっています。
アメダス観測値と体感温度の乖離
気象観測システムであるアメダスは、気温、風向、風速、降水量などを測定しますが、その設置場所には厳格な規定があります。観測地点は全国で条件を統一するため、必ず芝生の上で風通しの良い場所に設置され、気温は地表から1.5メートルの高さで計測されます。立花教授によれば、この1.5メートルという高さは、人間が体感する気温を測ることを意図しているとのことです。しかし、都市部の繁華街で35度を超える猛暑日の場合、アメダスが計測する最高気温よりも体感温度がはるかに高い可能性は十分に考えられます。
路面温度の驚くべき実態
立花教授が特に注目するのは、アスファルト舗装の路面温度です。サーモグラフィーで測定すると、猛暑日には都市部でも農村部でも、アスファルト表面の温度は60度を超えることが分かっています。この高温のアスファルトは、特に地面に近い位置にいる人々に大きな影響を与えます。
ベビーカーに乗っている赤ちゃんや小学校低学年の児童の場合、体全体が50度の高温に包まれている可能性も指摘されています。アメダスの観測値が「頭のてっぺんの気温」と例えられる一方で、足元から膝にかけての空間は極めて高温になっているのです。立花教授は、渋谷のハチ公前のような場所にサーモグラフィーを設置し、24時間路面温度をライブ配信すれば、専門家にとっても70度近くに達する可能性のある興味深いデータが得られるだろうと提言しています。
猛暑日の都市部で高温にさらされる子ども
猛暑を招く「偏西風の蛇行」とは
日本に猛暑が襲来している根本的な原因は、「偏西風の蛇行」にあります。これは地球温暖化によって北極の気温が上昇し、熱帯との気温差が減少したことで引き起こされる現象です。偏西風は、北極の冷たい空気と熱帯の熱い空気の境目に発生し、西から東へと吹く風です。かつては、この偏西風の「カーテンレール」が日本列島の上空にあり、冷たい風や熱い風の強さによって偏西風が南北に揺れ、猛暑や冷夏をもたらしていました。
しかし現在、地球温暖化の影響により、偏西風の「カーテンレール」は北海道よりもさらに北、カムチャツカ半島のあたりに移動してしまっています。その結果、偏西風がどのように揺れようとも、日本列島は常に熱い空気にすっぽりと覆われてしまい、猛暑が避けられない状況になっているのです。
猛暑が常態化する中、アメダスの数値だけにとらわれず、アスファルトの路面温度や子どもの体感温度といった具体的な状況を理解し、適切な対策を講じることが、健康を守る上で極めて重要です。地球温暖化がもたらす気象変動の深刻さを改めて認識し、私たち一人ひとりがこの新たな気候に適応していく必要があります。
参考文献:
- 三重大学大学院生物資源学研究科 立花義裕教授
- 『異常気象の未来予測』(ポプラ新書)
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/5ec158006353c663397cb185454f35d052b3d11b
- デイリー新潮: https://www.dailyshincho.jp/article/2025/08150603/