退職代行モームリ、弁護士法違反容疑で家宅捜索 – 急成長の裏で露呈した非弁行為疑惑

近年急拡大を見せる「退職代行サービス」の代表格、「退職代行モームリ」を運営する「株式会社アルバトロス」(以下、アルバ社)が、弁護士法違反(非弁行為や非弁提携)の疑いで警視庁保安課の家宅捜索を受けました。2022年2月の創業以来、「多くのうさんくさい業者であふれていました」と、その市場性について語っていた谷本慎二社長(36)の言葉とは裏腹に、同社自身に法的な問題が浮上した形です。今回の捜索は、退職代行業界における法規制と倫理のあり方に一石を投じるものとして、社会的な注目を集めています。

「退職代行モームリ」運営会社「アルバトロス」が入居するオフィスビル「退職代行モームリ」運営会社「アルバトロス」が入居するオフィスビル

警視庁による家宅捜索と疑惑の核心

捜索は今年の10月22日、品川区西五反田にあるアルバ社本社と、関連する弁護士事務所2カ所に対して実施されました。捜索容疑の中心は、弁護士資格を持たない谷本社長やアルバ社が、依頼者の勤務先へ退職の意思を伝える以上の法律事務、例えば残業代の請求交渉などを弁護士に取り次ぎ、その見返りとして弁護士から報酬を得ていた疑いです。本来、弁護士資格がない者が行えるのは、退職の意思伝達のみであり、法律事務に関する交渉は非弁行為に該当します。この疑惑が事実であれば、組織的な弁護士法違反となります。

捜索後、モームリはサービスを再開したものの、この疑惑が企業の信頼性に与える影響は甚大です。退職代行を弁護士に依頼した場合の費用が一般的に5万円前後であるのに対し、モームリは正社員2万2000円、アルバイト1万2000円という低価格でサービスを提供していました。しかし、非弁行為の疑いがかけられた業者からの連絡は、勤務先に対する説得力を著しく欠くこととなり、今後の事業運営に厳しい状況が続くものと見られています。

急成長の背景と谷本社長の華やかな経歴

「退職代行モームリ」は、近年社会問題化する退職時のストレスを軽減するサービスとして需要を捉え、急拡大を遂げました。谷本社長は、このサービスの「第一人者」として、メディアに頻繁に登場し、SNSなどを活用して利用者を着実に増やしてきました。その結果、2025年1月期の売上は約3億3000万円に達し、2期連続の大幅な増収を記録するなど、経営は順調に見えました。

谷本社長自身の背景も注目されます。岡山県出身で神戸学院大学を卒業後、国内最大手のカラオケチェーンを手がける上場企業に入社。エリアマネージャーを務めた後に退職し、アルバ社を設立しました。彼は、岡山や神戸時代の知人、そしてエリアマネージャー在任時の店長職であった女性を会社の中心に据え、事業を拡大していきました。谷本社長は事業の成功と共に、港区内の超一等地にある億ションに居を構えるまでになったと報じられています。

報酬スキームと「労働環境改善組合」の役割

今回の非弁行為疑惑において、特に重要な役割を担っていたとされるのが、谷本社長の妻でもあるアルバ社の執行役員です。捜索前、谷本社長はメディアに対し「弁護士との間で金銭のやりとりはない」と説明していましたが、その報酬の発覚を免れるための受け皿として、特定のスキームが存在した可能性が指摘されています。

具体的には、アルバ社が依頼者の勤務先との交渉のために「労働環境改善組合」という組織を設立し、谷本社長の妻がその執行委員長を務めていました。弁護士からの見返りは、この組合に対して「賛助金」という名目で支払われていた疑いが持たれています。このような迂回スキームは、直接的な金銭の授受を隠蔽し、非弁提携の証拠を曖昧にする意図があったのではないかと考えられます。今後、押収された資料の分析や関係者への詳細な聞き取りを通じて、谷本社長らの刑事責任の有無が厳しく追及されることになります。

結び

今回の「退職代行モームリ」への家宅捜索は、急速な成長を遂げた退職代行サービス業界全体に、コンプライアンスの重要性を改めて問いかけるものです。利便性の追求と同時に、法的な専門性や倫理観が求められるサービス提供において、透明性と信頼性の確保は不可欠です。本件の進展は、今後、新たな法整備や業界ガイドラインの策定にも影響を与える可能性があり、注目されます。


参考文献:
モームリ運営会社、弁護士法違反容疑で家宅捜索 社長は億ション居住か…急成長の「退職代行」をめぐる怪しい金の流れ