欧州猛暑で熱中症死者急増:エアコン普及率の低さと環境政策のジレンマ

世界各地で記録的な猛暑が続く中、ヨーロッパ諸国ではエアコンの普及率が低いことが熱中症による死者急増の一因となっています。普及が進まない背景には環境に配慮した政策があるものの、人命と環境保護のバランスが問われる事態に直面しており、その是非が国際的に注目されています。

欧州の猛暑とエアコン普及率に関するニュース記事のイメージ図欧州の猛暑とエアコン普及率に関するニュース記事のイメージ図

日本と欧州、対照的なエアコン普及状況

日本全国で30℃を超える真夏日が日常となり、エアコンはもはや生命を守るための重要なインフラと言えるでしょう。特に、子どもや高齢者がいる家庭では熱中症対策として不可欠であり、オフィスや公共施設においても快適な環境は生産性維持のために欠かせません。内閣府経済社会総合研究所が今年3月末に行った調査によると、日本では北海道などの比較的涼しい地域を含め、2人以上の世帯の91.7%がエアコンを所有しており、その普及率は9割を超えています。

ところが、同じく記録的な熱波に見舞われているヨーロッパでは、エアコン事情が大きく異なります。米CNNの報道によれば、アメリカの住宅の約90%がエアコンを備えているのに対し、欧州全体では約20%にとどまっています。国別の普及率を見ると、特に欧州北部で低く、イギリスではわずか5%、しかもその大半がポータブル型です。ドイツに至ってはわずか3%という低水準です。フランスでは25%、イタリアやスペインでは40%と、比較的温暖な南部では普及率が高いものの、それでも半数に達していません。この対照的な数字は、猛暑への備えにおける地域差を浮き彫りにしています。

「静かな殺人者」:猛暑がもたらす深刻な人的被害

欧州でのエアコン普及率の低さは、単に不便なだけでなく、深刻な人命被害を引き起こしています。英ガーディアン紙が報じた速報分析によると、2023年6月23日から7月2日までのわずか10日間で、欧州12都市において2300人が高温により死亡しました。このうち1500人は気候変動に起因するとされています。

異常気象を研究する学際組織「ワールド・ウェザー・アトリビューション」は、近年における熱波を「静かな殺人者」と呼んでいます。その理由として、犠牲者の多くが人目につかない自宅や病院で亡くなるため、その深刻さがしばしば見過ごされがちである点を挙げています。死亡者の88%が65歳以上の高齢者であり、特に脆弱な層に大きな影響が出ていることが分かります。

英フィナンシャル・タイムズ紙の分析では、2000年から2019年の19年間で、西ヨーロッパでは年間平均8万3000人が猛暑により死亡していると指摘しています。同紙は、エアコン普及率が約90%に達する北米での死者が年間2万人にとどまっていることと比較し、4倍以上もの死者数の差は、エアコン普及率の低さが犠牲者を生んでいる現実を明確に物語っていると結論付けています。

結論

欧州における記録的な猛暑とエアコン普及率の低さは、人命に関わる喫緊の課題となっています。環境負荷を考慮した政策は重要であるものの、極端な気象条件下での人々の生命と健康を守るための適切な対策が急務であることは明らかです。欧州がこのジレンマにどう対処し、環境保護と人道的配慮のバランスをいかに取るか、今後の動向が注目されます。

参考文献

  • 米CNN
  • 英ガーディアン紙
  • 英フィナンシャル・タイムズ紙
  • 内閣府 経済社会総合研究所
  • ワールド・ウェザー・アトリビューション