2025年秋ドラマシーズンにおいて、TBSの「じゃあ、あんたが作ってみろよ(じゃあつく)」と日本テレビの「良いこと悪いこと」は、異例の大ヒットを記録しました。これらの作品は、従来のドラマの常識を覆し、特に若い世代から絶大な支持を集めています。その成功の背景には、共通するいくつかの特徴が見られます。両ドラマの脚本家はいずれも30代前半の若手で、プライム帯の連続ドラマに初挑戦。ベテラン脚本家がひしめく中で、新人脚本家が新風を巻き起こし、秋ドラマ戦線の勢力図を塗り替える形となりました。
若手脚本家が牽引する新潮流と高視聴率
「じゃあつく」と「良いこと悪いこと」は、全年齢層を対象とする個人視聴率が3%台から5%弱と安定して高く推移していますが、特筆すべきはそのコア視聴率です。11月第3週のデータでは、全作品の中で両ドラマが同率トップを飾りました。ドラマ離れが深刻と言われるT層(男女13〜19歳)からも多くの視聴者を獲得し、ドラマ好きが多いF1層(女性20〜34歳)の個人視聴率では飛び抜けた数字を記録しています。 この若年層からの支持の要因の一つが、第1回から共通して見られる「展開の速さ」です。動画を1.5倍速や2倍速で視聴することが日常となっている現代の若い世代にとって、スピーディーな物語展開はまさに時代のニーズに合致したと言えるでしょう。
竹内涼真(左)と間宮祥太朗、秋ドラマの顔として注目を集める
「じゃあ、あんたが作ってみろよ」が打ち破るラブコメの常識
「じゃあつく」は、特にラブコメのジャンルにおいて、従来の常識を大きく打ち破る描写が特徴的です。
従来の定石を覆す展開
本作では、同棲していた主人公の海老原勝男(竹内涼真)と山岸鮎美(夏帆)が、第1回であっさりと別れるという衝撃的な展開を見せました。原作漫画に沿ったものとはいえ、古くからのラブコメの常識では、出会いや別れといった見せ場は、なるべく時間をかけて丁寧に描かれるものです。しかし、「じゃあつく」では別れを単なる出来事の一つとして捉え、重々しい感情の余韻に浸ることなく物語が進行します。これは、「元カレ」「元カノ」という言葉が一般化した現代において、出会いや別れがかつてほど大ごとではないという実情を反映しているのかもしれません。
自己啓発を促すキャラクター造形
従来のラブコメが「憧れの存在」を描きがちだったのに対し、「じゃあつく」は第1回で勝男の「昭和期の小学生男子のような女性観」や、鮎美の「主体性の欠如」といった明確な欠点を提示しました。そして、第2回以降は、この二人が自身の欠点に少しずつ気づき、それを克服しようとする自己啓発の物語として展開します。ラブコメでありながら、登場人物の内面的な成長に焦点を当てるというアプローチは非常に珍しく、視聴者に新鮮な驚きを与えました。
新たな男女関係の提示
ラブコメの常識破りは他にもあります。鮎美と別れた勝男は、マッチングアプリを通じて通販会社社長の柏倉椿(中条あやみ)と出会います。二人は勝男の家でおでんを食べ、酒を酌み交わし、椿はそのまま勝男宅に宿泊します。旧来のラブコメであれば、このような状況は二人の急速な接近やハプニングを予感させるものですが、本作では何も起こりませんでした。その結果、勝男と椿の間には恋愛感情を超えた友情が芽生え、椿はその後、勝男を様々な面で助ける存在となります。男女間に存在するのは恋愛感情のみという多くのラブコメの常識は、もはや現代の実情に合わないことを示唆しています。
「ダメ人間」への共感が生む親近感
「じゃあつく」の人気の大きな理由の一つに、勝男と鮎美がともに「ダメ人間」である点が挙げられます。ラブコメの登場人物に憧れる時代は終わりを告げ、視聴者は、身近にいそうな、どこか欠点のあるキャラクターに強い親近感を抱いています。
勝男は自分が完璧だと信じ込んでいる典型的な「ダメ男」であり、鮎美もまた、交際したばかりのミナトくん(青木柚)と深く考えずに同棲し、振られた結果、一時的に行き場を失います。さらに、インチキフードプロデューサーに騙されて飲食店開店費用を奪われ、職まで失う羽目になります。鮎美は、付き合った男性に合わせることばかり考えてきたため、自分で判断する能力に欠けていたのです。これらの欠点を持つ二人の姿が、多くの視聴者の共感を呼びました。
最終回への期待:「じゃあつく」の結末は?
次回の最終回では、それぞれの欠点に気づかされた勝男と鮎美が復縁するのかどうかが大きな見どころとなります。彼らが自身の問題と向き合った上で、今度は相手とうまくやっていけるのか。物語のヤマ場を最後まで残した構成も、視聴者の期待を高めています。また、タイトルの「じゃあ、あんたが作ってみろよ」という言葉を鮎美が最終的に口にするのかどうかも、注目すべきポイントです。
「じゃあつく」と「良いこと悪いこと」は、単なるヒットドラマに留まらず、若手脚本家による新たな視点、現代の視聴習慣に合わせたスピーディーな展開、そして従来のジャンルを超えた人間関係の描写を通じて、秋ドラマシーズンに新たな潮流を生み出しました。これらの作品は、視聴者が求めるエンターテインメントの形が変化していることを如実に示しており、今後のドラマ制作に大きな影響を与えることでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 「じゃあつく」と「良いこと悪いこと」がヒットした理由。脚本家は共に30代前半、プライム帯連ドラ初挑戦





