普遍のテーマ「ミセン-未生-」:韓国ドラマが映し出す現代社会の光と影

仕事、キャリア、人間関係、そして自己の可能性。人生における多くの選択と葛藤は、洋の東西を問わず共通のテーマです。特に、今日の日本社会においても、学歴、雇用形態、性別といった様々な背景から生じる困難に直面する人々は少なくありません。そうした現代を生きる私たちに深く共感を呼び、明日への勇気を与えてくれる韓国ドラマの傑作「ミセン-未生-」は、単なるエンターテインメントの枠を超え、普遍的な社会の縮図を描き出しています。

「未生」とは何か?会社員の「悲哀」をリアルに描く傑作ヒューマンドラマ

「ミセン-未生-」は、かつてプロ棋士の夢を抱きながらも挫折し、縁故入社で大手総合商社のインターンとして社会に飛び込んだ主人公チャン・グレ(イム・シワン)が、熾烈な競争と理不尽な現実に直面しながらも成長していく過程を描いたお仕事ヒューマンドラマです。「未生」とは囲碁用語で「まだ生ききっていない石」を指し、完全に生きていない、死んでもいない宙ぶらりんな状態を表します。これは、社会の厳しさに揉まれながらも、まだ完全には「生ききれていない」若者たちの姿を象徴しています。

本作の魅力は、主人公グレの懸命な奮闘だけでなく、彼の同期となる新入社員たちのサイドストーリーが極めてリアルに描かれている点にあります。それぞれの立場や能力が異なる彼らが、社会の壁にぶつかり、悪戦苦闘する姿は、働く多くの人々の胸に強く迫ります。

韓国ドラマ「ミセン-未生-」で奮闘する主人公チャン・グレ(イム・シワン)と彼のメンターであるオ・サンシク課長(イ・ソンミン)韓国ドラマ「ミセン-未生-」で奮闘する主人公チャン・グレ(イム・シワン)と彼のメンターであるオ・サンシク課長(イ・ソンミン)

社会の壁に悪戦苦闘する若者たち:それぞれの「未生」

同期たちの描写は、様々な形の「未生」を浮き彫りにします。カン・ハヌル演じるチャン・ベッキは、輝かしい学歴と知性を持ちながらも、望まない部署に配属され、雑務ばかりを任される日々から焦りと挫折感を味わいます。自らの能力を発揮できない不満から、同僚グレへの嫉妬に駆られる姿は、エリート層の抱える苦悩を象徴しています。

紅一点のアン・ヨンイ(カン・ソラ)は、語学堪能で優秀なスキルを持つエリートですが、「女性だから」という旧態依然とした偏見に満ちた上司や先輩たちから、仕事を与えられず、プライベートな用事まで押し付けられる理不尽に耐え忍びます。彼女の経験は、今日の職場にも根強く残る性差別やハラスメントの問題を想起させます。

「ミセン-未生-」に登場するチャン・ベッキ(カン・ハヌル)とアン・ヨンイ(カン・ソラ)が職場で直面する困難「ミセン-未生-」に登場するチャン・ベッキ(カン・ハヌル)とアン・ヨンイ(カン・ソラ)が職場で直面する困難

そして、ピョン・ヨハン演じるハン・ソンニュルは、陽気な情報通でありながら、工場経営者の息子として現場を重んじる情熱を秘めています。しかし、適当な仕事ぶりをする上司に責任を押し付けられたり、手柄を横取りされたりする現実に直面します。上司に訴えても聞き入れられない悶々とした日々は、組織内の不条理や不正義に苦しむ人々の心情を代弁しています。

「ミセン-未生-」で工場現場の不条理に立ち向かうハン・ソンニュル(ピョン・ヨハン)の姿「ミセン-未生-」で工場現場の不条理に立ち向かうハン・ソンニュル(ピョン・ヨハン)の姿

大企業に入社したプライドや夢が打ち砕かれ、心折れそうになりながらも、少しずつ成長していく若き彼ら。最初は自分のことで精一杯だった4人が、やがて同じ「未生」の仲間として繋がり、互いに支え合う姿は、視聴者に深い感動を与えます。

10年前のドラマが問いかける現代社会の「理不尽」

このドラマが制作されたのは約10年前であり、現在の厳密なコンプライアンス基準とは異なる部分もあります。しかし、学歴差別、女性差別、契約社員の限界、上司と部下の複雑な構図など、描かれる多くの「理不尽」は、表立っては語られずとも、形を変えて今日の社会にも脈々と存在している問題です。踏みにじられても、何度も挫折を経験しても、前を向いて歩もうとする彼らの姿は、困難に直面する私たちに、諦めずに前に進む「明日への勇気」を与えてくれます。そして、イ・ソンミン演じるオ・サンシク課長のような、部下を信じ、時に厳しくも温かく見守る理想の上司の存在は、組織における真のリーダーシップとは何かを問いかけます。

困難に立ち向かう全ての人へ

「ミセン-未生-」は、現代社会を生きる全ての「未生」たちへ捧げる、力強くも優しいメッセージです。仕事や人生の荒波に揉まれ、時には涙することもあるでしょう。しかし、このドラマは、私たち一人ひとりが経験する葛藤や成長の尊さを教えてくれます。もし今、あなたが何らかの壁に直面しているのなら、この物語が新たな一歩を踏み出すきっかけとなるかもしれません。


参考資料