韓国で、フードデリバリー配達員3名が熱中症の疑いで命を落としたニュースは、世界中のギグワーカーに衝撃を与えています。43歳、51歳、53歳という年齢の異なる彼らが、連日の40℃超えを記録したソウル市近郊で倒れ、あるいは帰宅後に意識を失い亡くなったという事実は、猛暑がもたらす労働環境の厳しさを浮き彫りにしました。今年の韓国における熱中症患者数は前年同期比2.2倍に急増しており、この問題は決して他人事ではありません。ウーバーイーツや出前館で配達員として働く私自身、このニュースに背筋が凍る思いがしました。なぜなら、これまでの私は「本当に危なくなったら休めばいい」「ある程度の暑さは気合で乗り切れる」といった安易な精神論や根性論に頼り、暑さ対策を怠りがちだったからです。
猛暑の中、荷物を背負って立ち尽くすフードデリバリー配達員。自己防衛の必要性を訴える
精神論が招いた危機:配達員が直面する熱中症のリスク
配達中に「もしかして熱中症か?」と感じた経験は、過去に一度や二度ではありません。めまい、立ちくらみ、足のつり、気分不良といった身体の異変を感じた際には、すぐに稼働を中断するようにしていますが、判断が遅れることもありました。時には自宅にたどり着いてから激しい頭痛に襲われ、「このままでは命に関わるかもしれない」という恐怖を感じたこともあります。しかし、その後に続くのは「働けなかった分、収入が減ってしまう」という現実的な不安であり、命の危険性について深く思考を巡らせることはほとんどありませんでした。この金銭的なプレッシャーが、危険を冒してでも働き続けようとする思考に繋がり、結果として自身の暑さ対策を疎かにする大きな原因の一つとなっていたのです。
節約魂と経済的圧力が生む危険な選択
私にとってお金の大切さは骨身に染みており、筋金入りの節約精神は幼い頃からの生活に根差しています。22歳で社会に出た際、約500万円の奨学金を背負っていたこともあり、節約はまさに「生きること」と同義でした。冬場には部屋の窓に梱包材を貼って保温効果を高めたり、料金未納でガスが止まっても「ガス代の節約になる」と前向きに捉えたりするほどです。このような経験からくる節約への執着は、猛暑の中での労働においても、自身の健康よりも目先の経済的な損得を優先させてしまう傾向を生み出しました。配達中に35℃を超える猛暑日にもかかわらず、窓を開けている住居を少なからず見かけます。一時的な換気だと信じたい一方で、近年の急激なインフレや電気代の高騰に悲鳴を上げ、生活費を切り詰めている人々が私だけではないことは明らかです。経済的な圧力が、熱中症対策をおろそかにする危険な選択を促している現状があるのかもしれません。
企業や法規だけでは不十分:自己防衛こそが命綱
今回のような悲劇は、私たちの社会がギグエコノミーの労働者、特に屋外で働く配達員のような人々を十分に保護できていない現実を突きつけています。現状では、企業や既存の法律が配達員を守る仕組みはまだ十分とは言えません。だからこそ、私たち配達員は、自らの命を守るための自己防衛策を徹底することが何よりも重要です。水分補給、休憩の徹底、涼しい場所での待機、無理な稼働の中断など、基本的な熱中症対策を怠らず、自らの体調に常に敏感である必要があります。経済的な事情や精神的なプレッシャーから無理をしてしまう気持ちは痛いほど理解できますが、何よりも大切なのは自身の命と健康です。この韓国の悲劇を教訓とし、一人ひとりが意識を高め、自らの身を守る行動を徹底することが、今後の労働環境における喫緊の課題と言えるでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース. (2023年8月19日). 「根性論に節約魂…。暑さ対策を怠ってきた筆者の反省 熱中症の疑いで43歳、51歳、53歳……3名の配達業者が亡くなった、韓国のニュースが注目を集めている。」