石破首相退陣論の中、高市早苗氏に高まる期待:自民党臨時総裁選の焦点と政策論争

臨時総裁選の実施を巡る自民党内の手続きが進行する中、石破茂首相(党総裁)の退陣を求める声が一部で広がり、それに伴い高市早苗前経済安全保障担当相の新総裁就任への期待が高まっています。これは、7月の参院選で党が大きく得票を減らしたことを受け、保守色の強い高市氏を擁立することで「岩盤支持層」を取り戻したいという党内の思惑があるためです。しかし、消費減税など高市氏が掲げる政策には、現在の石破政権と相容れない部分があり、政府内からは懸念の声も上がっています。

自民党は19日、党総裁選管理委員会を開催しました。委員長を務める逢沢一郎衆院議員は、党則に基づき、党所属の国会議員295人と都道府県代表47人に対し、臨時総裁選の要否について意見を聴取する方針を改めて示しました。過半数の172人が実施を求めれば、臨時総裁選が実施されることになります。今後、意見聴取の回答期限など、詳細な日程についても協議が進められる予定です。

自民党臨時総裁選の行方:手続きと党内の声

臨時総裁選が実施される場合、高市氏は有力な候補者の一人として目されています。ある参院議員はロイターの取材に対し、「石破首相が退陣する流れはでき上がっている」との見方を示し、全国の党員票を含めて判断する「フルスペック」での総裁選の必要性を強調しました。同議員はさらに「次の総裁はもう高市さんしかいない」と述べ、高市氏への期待感を表明しています。別の参院議員も、「保守票を取り戻せる人を首相にしなければだめだ」と語っており、7月の参院選で多くの保守票が参政党などへ流出してしまったことへの強い危機感が背景にあります。

自民党の臨時総裁選で注目される高市早苗前経済安全保障担当相自民党の臨時総裁選で注目される高市早苗前経済安全保障担当相

実際に、高市氏の党員人気は高いことで知られています。昨年9月の総裁選では、決選投票で石破氏に敗れたものの、1回目の投票では全国の党員・党友票を基にした「総党員算定票」でトップを獲得していました。中国地方で市議会議員を務めるある党員は、「いまだに総裁選の結果に納得していない党員はたくさんいる」と述べ、党員層における高市氏への根強い支持を示唆しています。

高市氏の政策と政府内の懸念

しかし、高市氏が掲げる政策、特に消費減税の主張に対しては、政府内から懸念の声が聞かれます。高市氏は6月14日に自身のユーチューブチャンネルで、「食料品にかかっている8%の消費税を0%に引き下げることがいま必要なのではないか」と述べ、その財源については「決算剰余金や外為特会の利息収入を充てる方法もある」と提案しました。さらに、「日本の財政状況は決してそんなに深刻に悪いものではない。よくするために賢く投資をする」とも語っています。

これに対し、石破政権は消費減税について、社会保障の安定財源確保の観点から一貫して否定的な姿勢を取ってきました。現在の財政状況においても、金利上昇に伴う国債の利払費増加や慢性的な人口減少による経済成長の不確実性などの課題が指摘される中、政府は財政健全化を重視し、基礎的財政収支(PB)の早期黒字化を目指すのが基本スタンスです。

このような石破政権の方針とは異なるように見える高市氏の主張に対し、財務省幹部の一人は「(高市氏が首相になれば)積極財政を推し進めて、我々の考えに耳は貸さないだろう」と強い警戒感を示しています。また、政務三役を務める自民党議員の一人も、「物価高是正のためには円安阻止が大切だ。日本国債の格下げを阻止できるかどうかが重要になる。高市氏ではだめだ」と述べ、財政規律の緩みに対する懸念を表明しました。

専門家が指摘する金融市場への影響

専門家は、この状況をどのように見ているのでしょうか。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏は、現時点で臨時総裁選の実施は確定していないと前置きした上で、金融市場への影響について見解を述べています。「石破氏は政治的にはリベラルで、経済政策では財政規律を重視する方向なので、首相が代われば、経済政策の流れが変わり、積極財政により、債券市場には悪材料、株式市場には短期的に前向きに受け止められる可能性がある」と分析しています。

一方で、木内氏は「財政規律が緩み、消費減税の議論が高まれば国債の金利に影響する可能性がある。その先に日本国債の格下げ観測もくすぶる」とも指摘しています。さらに、「悪い金利上昇は経済にマイナスなので、積極財政は短期的に株式市場にプラス効果があっても、円安による物価上昇が積極財政のプラスを打ち消す可能性もある」とし、慎重な見方を示しています。

結論

自民党内の臨時総裁選を巡る動きは、石破政権の政策運営と、次期総裁候補として浮上する高市氏の経済政策との間で、明確な違いを浮き彫りにしています。保守層の支持回復を求める声が高市氏への期待を強める一方で、消費減税や積極財政を巡る高市氏の主張は、財政健全化を重視する政府や財務省、そして一部の市場関係者からの懸念を招いています。今後の総裁選の行方は、日本の政治だけでなく、経済・金融市場にも大きな影響を与える重要な焦点となるでしょう。

参考文献

  • ロイター
  • 竹本能文
  • 鬼原民幸