ロシア大統領府(クレムリン)は、ウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領による首脳会談の可能性について、必要な手順を踏むべきだとして慎重な姿勢を示しています。一方、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、ウクライナにおける戦争終結に向けた両首脳の直接会談を改めて強く呼びかけています。しかし、この外交努力は複雑な課題に直面しており、欧州の主要国からは懐疑的な見方も示されています。
ロシア、ウクライナ首脳会談へのクレムリンの慎重姿勢
プーチン大統領は18日、トランプ氏に対してウクライナ側との直接協議に「オープン」であると伝えました。しかし、ロシア政府高官らは、この会談がすぐに実現することに対して慎重な姿勢を崩していません。セルゲイ・ラヴロフ外相は、いかなる会談も「専門家レベルから始め、その後に必要なすべての段階を経て」準備される必要があると主張し、クレムリンが頻繁に使う表現で具体的な見通しを曖昧にしました。ドミトリー・ポリアンスキー国連次席大使も、直接会談の機会を「誰も拒否していない」としながらも、「会談するための会談であってはならない」と述べ、会談の目的と実質的な進展の必要性を強調しました。
19日には、プーチン氏がトランプ氏に対し、ゼレンスキー氏のモスクワ訪問を提案したと報じられましたが、ウクライナがこれに応じる可能性は極めて低いとみられています。これは、ウクライナ側が到底同意できないような、非現実的な提案をロシアが提示するという、これまでのロシアの外交手法の一つである可能性が指摘されています。
トランプ氏の外交努力と変化する和平への見方
ドナルド・トランプ米大統領は、15日にアラスカ州でプーチン大統領と会談したのに続き、18日にはホワイトハウスで欧州主要7カ国の首脳とゼレンスキー大統領を迎え、立て続けに会合を開きました。これらの会談を通じて、トランプ氏はウクライナ紛争の複雑さ、そしてロシアの要求とウクライナの立場の間にある大きな隔たりを改めて認識したようです。
トランプ米大統領とプーチン露大統領のアラスカ会談の様子。ウクライナ戦争の和平交渉に向けた両首脳の外交努力が注目される。
トランプ氏は19日、ウクライナ紛争の解決は「難問だ」と認め、プーチン氏に戦争行為を終わらせる意向がない可能性もあるとの見解を示しました。「プーチン大統領については今後数週間のうちにはっきりするだろう」と述べ、「彼が取引を望まない可能性もある」と付け加え、その場合、プーチン氏は「厳しい状況」に直面すると警告しました。
かつては停戦合意を取り付けると豪語していたトランプ氏ですが、今ではウクライナとロシアは停戦ではなく、恒久的な和平合意に直接向かうべきだと主張を変えています。和平合意が成立した場合のウクライナの安全保障に関しても、一定の前進が見られました。ゼレンスキー大統領と欧州指導者らは、和平合意が成立した際には安全保障がウクライナの主権にとって最も重要であることをトランプ氏に納得させたとみられています。トランプ氏は、もしヨーロッパが地上軍を提供するなら、アメリカは「空から」支援する用意があると述べましたが、その具体的な内容(情報活動や戦闘機の使用など)には踏み込みませんでした。
一方、フランスとイギリスが主導する「有志連合」は、戦争終結後にウクライナに派遣する可能性のある再保証部隊の計画を固めつつあると発表しました。19日のオンライン会合後、英首相官邸の報道官は、「強固な安全保障を提供する計画をさらに強化する」ため、有志連合は数日中にアメリカ側と会談すると述べました。
欧州首脳らの懐疑論とウクライナの立場
トランプ氏は、プーチン氏とゼレンスキー氏が直接会談することで和平合意が近づくと考えているようですが、両氏の間に「ものすごい反目」があることも認めています。プーチン氏とゼレンスキー氏が最後に会談したのは2019年でした。その後、ロシアはウクライナに本格的な戦争を仕掛け、何万人もの死者と広範囲の破壊をもたらし、現在も民間人への空爆が続いています。
プーチン氏はゼレンスキー氏を正統な指導者とみなしておらず、ウクライナが西側に接近しているのはゼレンスキー氏のせいだと考えています。ここ数年は、ウクライナが「ネオナチ政権」に支配されているという根拠のない主張を繰り返し、停戦にはウクライナ指導者の交代が必要だと主張してきました。さらにロシアは、自国の軍隊が前線で優位に立っている間は、話し合いには前向きではない姿勢を示しています。
それにもかかわらず、欧州首脳らとゼレンスキー大統領は、二者会談を支持しています。ゼレンスキー氏は18日、プーチン氏との会談について、「どのような形式でも」受け入れると発言し、欧州首脳らも会談場所について提案しています。首脳らは、直接会談を強く支持することで、もしプーチン氏が戦争終結に向けた具体的な措置を取る意思がない場合、トランプ氏にロシアに対する姿勢を厳しいものに戻させるよう促したい考えもあるでしょう。
紛争解決が近いというトランプ氏の楽観論とは対照的に、欧州首脳たちははるかに悲観的な見方をしています。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は19日、プーチン氏を「捕食者で、私たちの戸口にいる鬼」と呼び、同氏に和平に向けた努力の意思があるのかは「最大の疑問」だとしました。フィンランドのアレクサンドル・ストゥブ大統領も、プーチン氏を「めったに信用できない」とし、ゼレンスキー氏との会談実現について懐疑的な見方を示しています。
トランプ氏が欧州をどこまで支持するつもりなのか疑問が残るなか、今後数日間でさらに高官級の会談が開かれる予定です。イギリスの軍制服組トップであるトニー・ラダキン国防参謀総長は、ウクライナへの再保証部隊の派遣について協議するため、米ワシントンを訪れます。また、北大西洋条約機構(NATO)の幹部らは20日にオンライン会合を開く予定です。
まとめ
ウクライナ紛争の和平に向けた外交努力は、主要国の間で意見が分かれ、複雑さを増しています。アメリカのトランプ大統領はプーチン・ゼレンスキー両大統領の直接会談に期待を寄せるものの、ロシアは慎重姿勢を崩さず、欧州諸国はロシアの真の意図に強い懐疑心を抱いています。今後の高官級会談が、この難航する外交プロセスに新たな方向性をもたらすかどうかが注目されます。
参考資料
- (c) BBC News
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