ガザ市「飢饉」宣言:国連事務総長が「人類の失敗」と非難、イスラエルの反論と国際社会の懸念

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は22日、パレスチナ・ガザ地区のガザ市とその周辺地域で発生している飢饉(ききん)を「人類の失敗」であると強く非難しました。これは、国連が支援する総合的食料安全保障レベル分類(IPC)が最新の報告書で、同地域の食料不安状況を最も深刻な「フェーズ5(壊滅的飢餓または飢饉)」に引き上げたことを受けた発言です。ガザの食料危機は国際社会の喫緊の課題となっています。

IPC報告の詳細と深刻な予測

IPCの報告書によると、ガザ全域で50万人以上が「飢餓、困窮、死」という壊滅的な状況に直面しています。さらに、8月中旬から9月末にかけて、飢餓はガザ地区全体に広がり、中部デイル・アル・バラフや南部ハンユニスにも及ぶと予測されています。この期間には、ガザ地区の人口の約3割にあたる約64万1000人がIPCのフェーズ5に分類される「壊滅的飢餓」に直面する見込みです。また、人口の58%にあたる114万人がフェーズ4の「人道的危機」に該当するとされています。

報告書はまた、2026年6月までに5歳未満の子ども13万2000人の命が栄養不良によって脅かされると予測しており、その影響の深刻さが浮き彫りになっています。イスラム組織ハマスが運営するガザ地区の保健省は、戦争開始以降に栄養不良が原因で271人が死亡したと発表しており、この中には112人の子どもが含まれています。IPCが2004年に設立されて以来、公式に「飢饉」と分類された事例は過去4件のみであり、直近では2024年のスーダンが該当します。なお、IPC自体に飢饉を公式宣言する権限はなく、その判断は通常、各国政府や国連が行います。

ガザ地区、破壊された建物と瓦礫の中で生活する住民の厳しい状況を示す俯瞰写真。国連が飢饉を「人類の失敗」と非難する背景を象徴。ガザ地区、破壊された建物と瓦礫の中で生活する住民の厳しい状況を示す俯瞰写真。国連が飢饉を「人類の失敗」と非難する背景を象徴。

国連事務総長の強い言葉とイスラエルの義務

グテーレス事務総長は、「ガザの生き地獄を表現する言葉が尽きたかに思えたその時、新たな言葉が加わった。それが『飢饉』だ」と述べ、この状況が「謎ではない」と指摘しました。そして、「これは人為的な災害であり、道義的な非難に値し、人類そのものの失敗だ」と強調しました。さらに、事務総長はイスラエルに対し、「国際法の下で明確な義務がある」とし、「住民への食料や医療物資の供給を確保する責任がある」と述べ、国際人道法遵守を求めました。

イスラエル政府の反論と国際社会の指摘

これに対し、イスラエル政府はIPCの報告書を「完全なうそ」だと非難し、ガザで飢餓は起きていないと主張しています。また、国連が指摘するガザ地区への支援物資搬入制限についても、イスラエル側はこれを否定しています。しかし、イスラエルのこうした主張は、100を超える人道支援団体、現地での目撃者、複数の国連機関、そしてイギリスを含むイスラエルの同盟国からの指摘と真っ向から対立しています。これらの国際社会の声は、ガザ地区情勢に対する深刻な懸念を示しています。

現場の声:飢餓に苦しむ住民の証言

ガザ市出身で5人の子を持つリーム・タウフィーク・ハデルさん(41)は、「飢饉の宣言は遅すぎたが、それでも重要だ」と語りました。「私たちは5カ月間、たんぱく質を一切口にしていない。末の子は4歳だが、果物や野菜がどういう見た目で、どういう味なのか知らない」と、厳しい現実を訴えました。

リダ・ヒッジェさん(29)は、5歳の娘ラミアちゃんの体重が戦争開始前の19キロから10.5キロにまで減少したと話しました。ヒッジェさんによると、ラミアちゃんは戦争が始まる前は健康で持病もなかったといいます。「これはすべて飢饉のせいだ」とヒッジェさんは語り、「子どもが食べられるものがまったくない。野菜も果物もない」と嘆いています。ラミアちゃんは現在、足の腫れ、髪の毛のやせ細り、神経障害といった症状に苦しんでいます。

国際機関からの非難とイスラエルの対応

IPCの報告を受けて、国連のトム・フレッチャー国連事務次長(人道問題担当)は、今回の飢饉は完全に防止可能だったと指摘し、ガザへの食料搬入が「イスラエルによる組織的な妨害」によって阻まれていると非難しました。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長も、「これは意図的に引き起こされた飢餓で、イスラエル政府による人為的なものだ」と非難しています。

フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官は、この飢饉が「イスラエル政府の行動による直接的な結果だ」と述べ、同政府が人道支援の搬入を「不法に制限している」と批判しました。イギリスのデイヴィッド・ラミー外相も、今回の飢饉を「道義的に許されない事態だ」と表現し、ソーシャルメディア「X」に「イスラエル政府がガザへの十分な支援を認めなかったことが、この人為的な大惨事を引き起こした」と投稿しました。

これに対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「イスラエルには、飢餓を目的とした政策は存在しない。イスラエルは飢餓を防ぐ政策をとっている」との声明を発表しました。ネタニヤフ首相はさらに、「戦争開始以来、イスラエルはガザに支援物資200万トンの搬入を可能にしており、1人あたり1トン以上の支援が届けられている」とも主張しています。

支援活動の課題と軍事作戦の背景

イスラエルはここ数カ月、ガザ地区における支援物資の状況をめぐり、国際社会の各方面から相次ぎ非難を浴びています。7月には、数週間にわたる国際的な圧力の後、イスラエル軍はガザへの人道支援物資を空中投下したと発表しましたが、複数の支援団体はこれを「不気味な目くらましだ」と批判していました。その後も複数回にわたる空中投下が行われていますが、投下されたパレットが民間人の死亡につながったとの報告もあり、安全性に関する警告が出されています。BBCヴェリファイ(検証チーム)は、イスラエル軍が住民に立ち入りを明確に警告していた地域に援助物資が投下された事例が10件確認されたと報じました。

イスラエル政府は空中投下に加え、国連の支援車両向けに人道回廊を設ける方針を示していますが、国連は19日、「ガザに入る支援物資の量は、広範な飢餓を防ぐには不十分だ」と警告しています。ガザでの人道問題を担当するイスラエルの軍事組織、イスラエル占領地政府活動調整官組織(COGAT)は、1日あたり約300台の支援トラックがガザに入っていると主張していますが、国連は1日600台の物資が必要であるとしています。

IPCの報告書は、イスラエルがガザ市の占領を目的とした新たな軍事作戦の準備を進める中で発表されました。この紛争は、ハマス率いる勢力が2023年10月7日にイスラエル南部を攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質としてガザに連れ去ったことを受け、イスラエル軍がガザで軍事作戦を開始したことから勃発しました。これ以来、ガザでは少なくとも6万2122人が殺されたと、ハマスが運営するガザ保健当局は発表しています。大半のガザ住民は繰り返し移動を余儀なくされており、ガザ地区では住宅の9割以上が損壊または全壊したと推定され、医療、水、衛生システムも崩壊しています。

結論

ガザ市とその周辺地域で発生している飢饉は、国際社会が直面する深刻な人道危機であり、「人為的な災害」として国連事務総長が「人類の失敗」と断じる事態です。IPCの報告書が示す壊滅的な状況と住民の痛ましい証言は、即時かつ大規模な支援の必要性を強く訴えかけています。イスラエル政府の反論がある一方で、国際機関や各国政府からの批判が相次いでおり、食料や医療物資の円滑な搬入を確保し、ガザの食料安全保障を確立するための国際社会による協調と行動が不可欠です。この危機を乗り越えるためには、紛争の終結と人道支援の継続的な強化が喫緊の課題となっています。

参考文献