李在明韓国大統領は就任からわずか80日で日本を訪問し、米国よりも先に日本を訪れるという異例の行動で、対日関係を重視する姿勢を鮮明にしました。この日韓首脳会談は、米中対立の激化やトランプ米政権による高関税政策で国際的な自由貿易体制が揺らぐ中、日本との経済協力の強化が不可欠であるとの認識に基づいています。韓国は、歴史問題よりも実益を追求する「実用外交」への転換を図り、国際秩序の変動期において日本との連携を深めることで、多角的な外交戦略を展開しようとしています。
「対日重視」を鮮明にした異例の訪日
李在明大統領の就任後初の外国訪問先として日本を選んだことは、同盟国である米国よりも日本を優先するという異例の選択であり、その背景には、通商や安全保障問題を巡る国際秩序の大きな変動があります。李氏は23日の石破茂首相との会談で、「価値観などが似て立場の近い韓国と日本が、これまで以上に協力を強化すべきだ」と強調しました。これは、激化する米中対立やトランプ政権による保護主義的な政策が自由貿易体制に与える影響を強く意識し、日本との経済的連携を不可欠と捉えていることの表れです。また、参院選での与党敗北により日本の政局が不安定化する中、「歴史問題に前向き」とされる石破首相が在任している間に、日韓の協力基調を強固なものにしたいという意向も透けて見えます。
23日午後、首相官邸で日韓首脳会談に臨む李在明韓国大統領と石破茂首相
批判から「実用外交」への転換と多角的メッセージ
李大統領は野党代表時代、尹錫悦前政権の対日政策を「屈辱外交」と厳しく批判していました。しかし、大統領就任後は、現実的な利益を追求する「実用外交」へと方針を転換しました。これには、依然として国内に残る「反日イメージ」を払拭し、国民の理解を得たいという狙いも含まれており、韓国高官からは「訪日を通じ、偏見が払拭されることを期待している」との声も聞かれます。
韓国大統領が日本と米国を続けて訪問するのは通常では見られない動きですが、これは韓日関係の重視と、さらに広範な韓米日連携を自然な形で示す機会となります。同時に、中国を強く牽制するトランプ政権へのメッセージとしても機能し、多角的な外交戦略の一環として位置付けられます。
経済危機克服へ、日本を「魅力ある市場」と位置付け
李大統領が日韓間の経済協力を強く訴える背景には、韓国経済の深刻な悪化があります。韓国政府は22日、今年の国内総生産(GDP)成長率予測を0.9%に下方修正し、米国の関税政策も重なり、景気回復は李政権の最優先課題となっています。輸出がGDPの約4割を占める韓国にとって、輸出不振は支持率にも直結しかねない重要な問題です。
かつて国交正常化当初は日本から支援を受ける立場だった韓国ですが、現在では1人当たりGDPが日本を上回るまでに成長しました。長年対日貿易赤字を抱えてきましたが、今の韓国にとって日本は、輸出や投資の余地が大きい魅力ある市場として映っています。特に半導体分野での連携強化を目指しており、韓国与党内では環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加入や、日韓自由貿易協定(FTA)の締結への期待も高まっています。
国内の課題と今後の展望
しかし、李大統領の支持基盤である革新勢力の中には、歴史問題を重視する層が少なくありません。彼らの間では、李氏の対日姿勢に戸惑いや不満の声も上がっており、CPTPP加入などが実現すれば農業団体などからの強い反発が予想されます。今後、日韓協力の基調を維持していくためには、李政権が具体的な成果を示し、国内の多様な意見をいかに説得できるかが重要な課題となるでしょう。日韓関係の安定的な発展には、国内支持の確保が不可欠であり、その手腕が問われています。