「教育虐待」の悲劇:滋賀母親殺害事件、9浪娘を追い詰めた過度な期待

2018年、滋賀県で発生した女子大生による母親殺害事件は、社会に大きな衝撃を与えました。この痛ましい事件の背後には、国立大学医学部への進学を強要し続けた母親からの長年にわたる「教育虐待」があったことが明らかになり、その実態が注目されています。過度な教育熱が、いかに子どもの人生と精神を破壊しうるかを示す悲劇として、事件は今もなお多くの人々に問いかけ続けています。

滋賀母親殺害事件における教育虐待のイメージ滋賀母親殺害事件における教育虐待のイメージ

9年の浪人と母親の学歴コンプレックス

事件の加害者である桐生のぞみ(当時31歳)は、母親しのぶさん(当時58歳)からの執拗な教育強要により、9年間にも及ぶ浪人生活を強いられていました。しのぶさんは強い学歴コンプレックスを抱えており、娘を国立大学医学部に入学させ、医者にすることが「人生の勝ち組」であると固く信じて疑いませんでした。のぞみが小学生の頃から、母親は成績に不満を示し、「これでは公立中学にも行けない」と罵り、必死に問題集を解くよう命じる日々が続きました。

「看護師になるなら病院を荒らす」母の脅迫

高校3年になり、医師になる気力を失っていたのぞみに対し、担任教師が看護学科への進学を勧めたことが、母親の激しい怒りを買いました。しのぶさんは「のぞみが看護師なんてありえない。たかが高校教師のくせに偉そうに」と怒鳴り散らしたといいます。

高校卒業後も医学部受験に失敗し続けるのぞみに対し、母親は浪人生活を強要しました。家出を試みても探偵を雇って連れ戻され、「あんたなんか産まなきゃ良かった」と罵られ、日常的な暴行を繰り返されました。のぞみは後に、その生活を「囚人のようだった」と証言しています。

27歳でようやく滋賀医科大学医学部看護学科に合格したのぞみでしたが、母親は看護師ではなく助産師になるよう命じました。看護師になりたいと願うのぞみに対し、しのぶさんは「もし、あんたが看護師になるなら、病院に行って荒らしてやる。病院にいられなくなるようにしてやる」と脅迫を続けました。過度なプレッシャーと精神的暴力が、のぞみを深く追い詰めていったのです。

悲劇の結末:母親殺害と「モンスターを倒した」投稿

2018年1月20日、精神的に限界に達したのぞみは、ついに母親を刺殺しました。その後、遺体をバラバラにして野洲川の河川敷に遺棄するという衝撃的な行動に出ます。犯行後、彼女は自身のツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ」と投稿していました。

この事件は、「教育熱心」という名の下で行われる親からの過度な干渉や、一方的な期待の押し付けがいかに子どもの人生と心を破壊し、悲劇的な結末を招きうるかを示す極めて悲痛な事例となりました。子どもへの愛情の表現が、時に子どもの尊厳を奪い、精神を蝕む「教育虐待」となる危険性を、社会全体に改めて突きつけています。


参考文献:
文春オンライン「『産まなきゃ良かった』教育虐待をやめない母親をバラバラにした『医学部9浪・31歳女性』」(Webオリジナル)
https://news.yahoo.co.jp/articles/84af058a9cbe0a21ddd350b6d18d39c2d049b033