元Fリーガーであり、現在はメンタルスキルコーチとして活躍する清水利生氏が、スポーツ界のみならずビジネスシーンにも応用できる「自信を育てる」具体的な方法を解説します。マイナス感情をプラス感情へと転換し、着実に積み上げた自信は、どんな困難な状況下でも容易には揺らぎません。本記事では、アスリートやビジネスパーソンがぜひ身につけたい、強固なマインドセット構築の秘訣に迫ります。
自信を育てるメンタルスキルを学ぶビジネスパーソンやアスリートのイメージ
自信は「出来事+感情」のセットで形成されるメカニズム
そもそも「自信」という感覚は、私たちの脳内でどのようにして形作られるのでしょうか。例えば、ある選手が試合中に自信を持てずにプレーしているケースを考えてみましょう。「周りの選手に気を遣ってしまう」「チームメイトからの要求が高く、自分には自信がない」といった状況で、彼は自分の「ダメなところ探し」ばかりをしてしまいがちです。
うまくいかないことにばかり敏感になっている状態では、たとえポジティブなプレーができたとしても、自分自身をなかなか肯定できないメンタリティに陥ってしまいます。これは「カラーバス効果」と呼ばれる心理現象によるものです。例えば、赤いスニーカーが欲しいと思っていると、街中で赤いスニーカーを履いている人がやけに目につく、といった経験はないでしょうか。この効果により、私たちは自分の欠点やうまくいかないことばかりに注意が向き、結果として試合中に自信を失う方向へと導かれてしまうのです。
人間の自信は基本的に「出来事+感情」がセットになって形成されます。
- プレーする → プラス感情が動く → 自信が育つ
- プレーする → マイナス感情が動く → 自信を失う
多くの人が「自分の欠点を修正することこそが成長につながる」という固定観念を持っているように感じます。しかし、それがかえって「自分のダメな部分を探す」という癖をつけさせ、結果的に自信を見失うことにつながる場合があるのです。
「ダメなところ探し」が自信を削る深刻な理由
私たちは「セルフイメージ」(自己像)という言葉で、自分に自信があるかないかといった感覚を表現します。このセルフイメージがどのようにして構築されるかをさらに詳しく見ていきましょう。自信は、過去に経験した記憶に大きく影響されます。そして、この過去の記憶とは、前述の通り「出来事+感情」がセットになったものです。
例えば、私が焼肉を好きな理由を考えてみると、「美味しいから」「友達と行って楽しいから」といったプラスの感情が、焼肉を食べるという行動と結びついて記憶されています。このようにプラスの感情をたくさん味わうことで、自分の中に「これは好きだ」という感覚が形成されるのです。反対に、ある行動をしたときに「美味しくない」というマイナス感情を味わえば、その行動に対して「嫌い」という感覚が芽生えていきます。
これをスポーツに当てはめてみましょう。単に練習をたくさんこなしたり、試合に出場したりするだけで自信がつくかというと、必ずしもそうではありません。「嬉しい」「楽しい」「達成感」といった“プラスの感情が動くこと”によって、初めて自信は構築されていくのです。冒頭で述べたような「ダメなところ探し」をしている状態では、試合が進むにつれて自信がどんどん削られていき、本来のパフォーマンスを発揮することが難しくなってしまいます。
2種類の自信「ボーナス型」と「積み立て型」とは
自信には大きく分けて2つの種類があると考えられています。それが「ボーナス型」の自信と「積み立て型」の自信です。
「ボーナス型」の自信とは、例えば大きな試合でたまたま良い結果が出た、普段の努力が報われて一時的に評価された、といった外部からの要因や単発的な成功によって得られる自信です。これは強力な喜びをもたらす一方で、その成功が続かなかったり、環境が変わったりすると簡単に崩れてしまう脆さも持ち合わせています。まるで一時的なご褒美(ボーナス)のように、突然現れては消える性質があります。
一方、「積み立て型」の自信は、日々の小さな成功体験や、目標に向かって着実に努力する過程で得られる「ポジティブな感情」によって、少しずつ内側から育まれていくものです。例えば、「昨日の練習より少しだけ上達した」「難しい課題を一つクリアできた」「チームメイトと協力して良いプレーができた」といった、地道な積み重ねの中で生まれる「喜び」「充実感」「達成感」が、心の貯金のように積み上がっていきます。このタイプの自信は、外部の状況に左右されにくく、逆境に直面しても粘り強く乗り越えられる強さを持ちます。メンタルスキルコーチの清水利生氏が提唱するように、持続可能で揺るぎない自信を築くためには、この「積み立て型」のアプローチが極めて重要となるのです。
結論
自信は、単なる成功体験の数ではなく、「出来事」とそれに対する「感情」の結びつきによって形成される複雑な心の作用です。特に、マイナス感情に囚われて「ダメなところ探し」をしてしまうと、私たちのセルフイメージは損なわれ、自信は失われていきます。真に揺るぎない自信を育むためには、日々の経験の中から「プラスの感情」を見出し、意識的に積み重ねていく「積み立て型」の自信構築を目指すことが不可欠です。今日から、小さな成功やポジティブな感情に目を向け、自身の内なる力を育んでいきましょう。
参考文献
清水利生『あなたの本気を結果に導くスポーツメンタルスキル』(東洋館出版社)