いつの頃からだろう。質問されるたびになぜか、「ありがとうございます」とまず礼を言ってから答え始める人が増えている。これに対し、「いちいち感謝されても鬱陶しい」など不快感を抱くケースも多いとか。なぜ、このようなコミュニケーションが広がっているのか。背景を探った。
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面接担当者「自分のセールスポイントは?」
学生「ありがとうございます。私の長所は何事にも物怖じしないところだと思います。例えば~(以下略)」
面接担当者「志望動機を話してください」
学生「ありがとうございます。御社の企業理念に共感したからです。それは~」
面接担当者「学生時代に力を入れていたことは?」
学生「ありがとうございます。入学してすぐにテニスのサークルに入り、そこで学んだのは~」
違和感を持ち始めたのは、10年ほど前。元NHKアナウンサーで、大学や企業などを対象にしたプレゼンテーションや言葉遣いの研修・セミナー経験も豊富な合田敏行さん(67)は、大学生の就職面接トレーニングの場面での「ある変化」が気になった。
■ごく普通の質問に「ありがとうございます」
「ごく普通の質問に対し、必ず『ありがとうございます』と言ってから答える学生が一定数、いたんです。発想としては、1人の学生に対してわざわざ質問をしてくれて感謝します、ということなのでしょう。その後、同様の答え方をする学生の割合は年々増えていったなという印象です」
学生だけではない。例えば家電量販店で機器の説明をしてもらうとき、質問のたびに「ありがとうございます」と言ってから答える店員。ラジオ番組でパーソナリティーの質問のたびに、「ありがとうございます」と言ってから答え始めるゲストのトレンド研究家──。「近年、ちょっと気になる言葉遣いの傾向だなと思い、注目しています」(合田さん)
この「いちいち『ありがとうございます』」に違和感を持つ人は、他にも多いようだ。東京都内の会社員の男性(46)は、この言い方が「大嫌いなんです」と眉をひそめる。
「そこまで『ありがとうございます』を連発されるとくどいし、鬱陶しい。何だか、必要以上にへりくだっている感じがして、不愉快な思いさえ抱きますね」
■20数分の取材中に7回も
現在50代の筆者にも思い当たることがある。仕事柄、さまざまな人に取材する毎日だが、こちらの質問に「ありがとうございます」と答えてから話し始める人は、以前に比べて『明らかに増えた』が体感。言われる側として、必ずしもすべてのケースをネガティブに感じるわけではない。しかし、「なんでまた?」とうっすら違和感を持つのも確かだ。
答える当人はどういうつもりなのか。筆者が以前にオンライン取材をした東京都の会社員の女性(26)に聞いてみた。そのときは二十数分の取材で計7回、私の質問に「ありがとうございます」と前置きしてから答えてくれていた。