揚輝荘北園の池、水位低下と水質悪化が深刻化:名古屋市が早期改善へ着手

名古屋市に寄贈された松坂屋創業家の別荘「揚輝荘」(千種区法王町2丁目)において、その美しい景観を象徴する北園の池が深刻な水位低下と水質悪化に直面しています。一部では池が枯渇する事態となり、市民や寄贈者側からの改善を求める強い声を受け、名古屋市は当初の計画を前倒しし、水位と水質の改善工事に着手することを発表しました。歴史的文化財の保全に向けた迅速な対応が期待されます。

揚輝荘とは:歴史と文化財としての価値

揚輝荘は、覚王山・日泰寺の東隣に位置し、南園(約2750平方メートル)と北園(約6530平方メートル)から構成される広大な施設です。松坂屋初代社長である15代伊藤次郎左衛門祐民氏が、大正から昭和初期にかけて築き上げた壮麗な別荘として知られています。2007年には名古屋市に寄贈され、その価値が認められています。現在、聴松閣、揚輝荘座敷、伴華楼、三賞亭、白雲橋の5棟が名古屋市指定有形文化財に指定されており、地域の重要な歴史的建造物として大切にされています。

北園の池が直面する危機的な状況

特に北園の庭園は、京都の修学院離宮の影響を受けたとされる池泉回遊式の美しい景観が特徴です。かつては丘陵地の谷に位置し、豊かな雨水をたたえる池として親しまれていました。しかし、約2年ほど前から池の水位が著しく低下し始め、同時に水質も悪化の一途をたどっています。池底には大量のヘドロが堆積し、貴重なニシキゴイが死んでいる姿も度々確認されるようになりました。名古屋市によると、この水位低下と水質悪化は、周辺地域の開発や排水枡の壁面からの水漏れなどが複合的に影響しているものと見られています。

揚輝荘北園の池の水位が低下し、水質悪化が懸念される現状。2025年7月9日、名古屋市千種区法王町2丁目で撮影された、この歴史的庭園の危機的な状況を示す一枚。揚輝荘北園の池の水位が低下し、水質悪化が懸念される現状。2025年7月9日、名古屋市千種区法王町2丁目で撮影された、この歴史的庭園の危機的な状況を示す一枚。

名古屋市の迅速な対応と今後の展望

これまで近隣住民は名古屋市に対し、池の状況改善を求めて幾度となく働きかけてきました。市は当初、2026年度以降に予定されている揚輝荘の大規模改修に合わせて改善を行う方針を示していましたが、この方針に対し、寄贈者側の18代伊藤次郎左衛門祐哲氏からは「保存と活用を進めるというが、活用の前にやるべきことがあるのでは」と、早期の改善を強く求める声が上がっていました。

こうした背景を受け、名古屋市は最近の著しい水位低下と寄贈者側の要請を重視し、大規模改修に先駆けて水位と水質を改善するための対策検討を開始しました。第一弾として、今年の9月から10月にかけて、排水枡の補修工事を実施する予定です。市歴史まちづくり推進課の宇佐美智伯課長は、「大規模改修前であっても、できることは積極的に進めていきたい」と述べ、文化財としての揚輝荘の価値を守るための強い姿勢を示しています。今回の早期対応は、貴重な文化遺産を未来に継承するための重要な一歩となるでしょう。


参考文献