ドイツ:ネオナチ扇動者の「性別変更」と逃亡劇、新法が悪用か

ドイツで、収監前に法的な性別を男性から女性に変更したことで、女性刑務所への入所が決定していたネオナチ扇動者を巡り、国内で激しい議論が巻き起こっています。この人物は、出頭予定日に姿を現さず国外へ逃亡し、ドイツの新法「自己決定法」の悪用が指摘されています。

ドイツのライプチヒ地方裁判所に出廷したネオナチ扇動者、マルラスベンヤ・リービヒ受刑者。ドイツのライプチヒ地方裁判所に出廷したネオナチ扇動者、マルラスベンヤ・リービヒ受刑者。

マルラスベンヤ・リービヒ受刑者の背景と過去の活動

問題の中心人物は、マルラスベンヤ・リービヒ受刑者(54歳)です。かつてスベン・リービヒという男性名で知られていましたが、法的な性別を男性から女性に変更し、名前も現在の女性名に改めました。ドイツメディアの報道によると、リービヒ受刑者は数十年にわたり、ドイツ東部の右翼過激派の活動家として悪名を馳せてきました。かつては活動禁止団体「ブルート・ウント・エーレ」(「血と名誉」はヒトラーユーゲントのスローガン)のメンバーであり、「国外追放支援者」といった外国人排斥のスローガンが書かれた野球バットなどの商品をオンラインで販売する事業も営んでいました。活動家の証言によれば、2022年には東部ハレ市で開催されたLGBTQ(性的少数者)プライドパレードを妨害し、参加者を「社会の寄生虫」と罵倒するなど、差別的な言動を繰り返してきました。これらの行為により、リービヒ受刑者は人種的憎悪の罪や民衆扇動罪で有罪となり、禁錮1年6か月の実刑判決を受けていました。

「自己決定法」の悪用と女性刑務所への収監

リービヒ受刑者は、生時の性別とは異なる性別を自認するトランスジェンダーが、自己申告に基づいて法的な性別を変更できるドイツの新法「自己決定法」(2024年11月施行)を悪用しました。この法律を利用して自身の法的な性別を男性から女性へと変更したため、結果的に女性刑務所へ収監されることになったのです。29日に東部ケムニッツの女性刑務所に出頭する予定でしたが、姿を現しませんでした。

収監日の逃亡とモスクワからのメッセージ

出頭予定日、リービヒ受刑者は刑務所に現れる代わりに、自身のソーシャルメディアアカウントに「モスクワより愛を込めて」と書かれた画像を添えてメッセージを投稿しました。投稿には「誰も私の決断を知らなかった。弁護人も家族も。次は何だ? 国際逮捕状だ」と記されており、国外への逃亡を示唆しました。警察の担当者によると、刑務所前に集まったリービヒ受刑者の支持者らには、逃走計画に関する音声メッセージが送られ、その中で「リービヒは体調不良のため、他国に向けて出国した」と伝えられていたといいます。口紅を塗り、金のイヤリングやヒョウ柄のトップスを身に着け始めたリービヒ受刑者の性別変更は、2024年11月に施行されたばかりの自己決定法を揶揄する意図があったと広く見なされており、この一連の行動はドイツ社会に大きな波紋を広げています。


参考文献