中国の軍事現代化と米国の対抗戦略:AI・ドローン戦の最前線

世界が複雑な地政学的変化に直面する中、中国の軍事力、特にその空軍の急速な現代化は、国際社会の注目を集めています。同時に、米国はドローン技術の普及とAIを悪用した影響力作戦という新たな脅威に対し、防衛戦略の再編を急いでいます。本稿では、米国国防大学の分析に基づく中国空軍の質的向上、米国防総省によるドローン防御体制の抜本的改革、そして中国政府によるAIを活用した影響力作戦の衝撃的な実態という、三つの主要な側面を詳細に掘り下げ、米中間の軍事・情報技術競争の最前線を考察します。

中国空軍の劇的な現代化:数から質への転換

米国防大学(NDU)が発表した「中国空軍の適正規模分析-分析枠組み再検討」と題する報告書は、中国人民解放軍空軍(PLA Air Force)の現代化の実態を詳細に分析しています。この研究によると、中国空軍は2007年の航空機2700機、兵力40万人から、2025年には航空機2284機、兵力40万3000人と予測されており、航空機数は減少したものの、その戦闘能力は劇的に向上していると評価されています。

この航空機数の減少は、2010年代初期に第2世代や第3世代の旧型戦闘機が、新型機の導入ペースを上回る速さで退役したためです。現在、中国空軍はJ-6、J-7、J-8、Q-5といった旧型機をほぼ退役させ、第4世代のSu-27/J-11、J-10戦闘機、そして自主開発の第5世代ステルス戦闘機J-20へと置き換えを進めています。

爆撃機戦力も進化を遂げています。旧ソ連設計に基づくH-6で構成される爆撃機は、2007年の222機から2025年には219機と数に大きな変動はありませんが、ターボファンエンジンへの換装、空中給油能力の付与、長距離巡航ミサイル搭載能力の獲得により、戦闘力は大幅に向上しました。特に最新型のH-6Nは、DF-21から派生した核および通常弾道ミサイルを搭載すると予想されています。また、ステルス型爆撃機H-20は依然として開発中ですが、将来的に核兵器運搬任務を担うと見込まれています。

中国空軍の成長が特に顕著なのは支援航空機の分野です。空中給油能力は、Y-20輸送機を基盤としたYY-20A給油機が2024年に9機追加導入されたことで向上し、爆撃機や戦闘機の作戦範囲を拡大し、定期的な長距離巡察を可能にしています。輸送能力も、約55機のY-20大型輸送機がY-8やY-9中型輸送機と共に老朽化した機種を代替しつつあります。空中早期警戒能力も、2007年の実験用プロトタイプ段階から、現在では約54機の運用可能なプラットフォームを保有するまでに発展しました。

しかし、中国空軍は依然として戦闘機中心の戦力構造を維持しており、支援航空機が占める割合は約17%にとどまっています。これは米空軍の31%と比較すると低く、分析家らはこの比率の低さが、拡張する戦闘部隊の作戦範囲と効果を制限する可能性を指摘しています。

米国防総省のドローン防御能力強化:新タスクフォース「JIATF 401」の設立

米国防総省は、多様なドローンの導入を加速すると同時に、ドローン防御能力の迅速な確保を目指し、新たなタスクフォースを構成する計画を発表しました。ヘグセス国防副長官は2024年8月28日、従来の小型ドローン防御戦略のための指針書を廃棄し、数年間の評価と研究を越えて、新たな資金と権限を伴うモデルへ転換し、現場対応能力を迅速に構築すべきとの指示を出しました。

この指示に基づき、「合同機関間タスクフォース401(JIATF 401)」が構成されます。このタスクフォースは、権限と資源を効果的に調整し、米軍戦闘員に小型無人航空機体系(C-UAS)対応能力を迅速に提供することで、敵の脅威を撃退し、国家の領空に対する主権を強化すると、国防長官室は表明しています。

JIATF 401は、作戦、獲得、そして汎政府の役割を単一の指揮体系の下で統合し、調達権限、柔軟な予算執行、簡素化された人事権限が付与され、国防副長官の監督下で運営されます。2019年に創設され、陸軍が主導してきた合同小型無人航空機対応事務所(JCO)は、JIATF 401の設立直後に解体される予定です。

米国防総省JCOのロゴ、ドローン防御戦略再編を示す米国防総省JCOのロゴ、ドローン防御戦略再編を示す

これまでJCOは、国防総省が保有する30種を超えるドローン防御試作品を少数の承認システムに圧縮し、ユマ試験場で合同試演を執行することで、複数の企業が軍事分野に進出する足がかりを支援し、共通訓練および試験プロトコルを確立するなど、多くの進展を達成しました。しかし、批判者らはJCOが装備を迅速に購買・配備する権限が不足し、国防総省の予算が足かせになったと指摘していました。

JIATF 401は、調達決定を指示し、事業あたり最大5000万ドルを配分し、通常の連邦手続きに加え、技術専門家を迎え入れることで、これらの制約を解決する予定です。副長官の指示書によると、新しいタスクフォースはドローンフォレンジック、悪用および複製プログラムに関する作業を統合し、大量生産自律システムに関する国防イノベーション・ユニット(DIU)の「リプリケーター2」計画と連携します。また、タスクフォースは発足後30日以内に、小型無人航空機対応専用の試験・訓練範囲に関する勧告案を用意しなければなりません。今回の再編は、数年かかった日程を数カ月に短縮することを目指しています。

この新しいタスクフォースは、今後10年間で数百億ドル規模に成長すると予想される市場を再編するのに寄与するとみられています。タスクフォースは36カ月後に公式検討を経て、議会と国防総省が新しい組織の成果を評価する機会を持つことになります。

中国政府によるAIを活用した影響力作戦の実態

米テネシー州ナッシュビルに位置するヴァンダービルト大学の研究陣は、中国企業から流出した膨大な文書を分析し、中国政府が人工知能(AI)を活用して、前例のない速度と精密さで影響力作戦(Influence Operation)を進めていると明らかにしました。

ヴァンダービルト大学の研究陣が入手・検討した中国のAI企業GoLaxyの文書によると、中国政府は自国のAI企業を動員し、過去の対中操作の試みよりもはるかに精巧な宣伝キャンペーンを開発・運営しています。研究陣の分析では、GoLaxyが現職の米議員117人以上、米国の政治・思想指導者2000人以上、そして数千人にのぼる右派性向のインフルエンサーやジャーナリストのデータプロフィールを構築・追跡していたことが明らかになりました。

元国防デジタルサービス局長であり、今回の文書を分析したヴァンダービルト大学のブレッド・ゴールドスタイン教授は、「この要素を合わせれば全く新しい次元のグレーゾーン葛藤が生じる。これは我々が必ずまともに理解しなければいけない領域だ」と述べました。

ゴールドスタイン教授は、ネバダ州ラスベガスで開催されたハッカーコンベンション「DEF CON」で行われた記者懇談会で、ヴァンダービルト大学国家安全保障研究所所長のポール・ナカソネ元国家安全保障局(NSA)局長と共に発言しました。ナカソネ所長は、情報機関で外国の敵対勢力による世論操作作戦を追跡した過去の経験に言及しながら、「今、我々は前例のない効率性、速度、規模で武器を開発して運用する能力を目撃している」と強調しました。

GoLaxyは2010年に中国科学院傘下の研究所によって設立されましたが、直接的な政府統制は公式には確認されていません。しかし、同社が中国の国家安全保障上の優先順位に合わせて動いているとみられています。研究陣は文書から、GoLaxyが中国政治構造内の情報機関、共産党、軍の高位組織と協力していた状況を確認したと明らかにしました。

研究によれば、GoLaxyは香港と台湾を対象とした影響力作戦を遂行し、GoProという宣伝伝播システムを活用して、ソーシャルメディア全般にコンテンツを拡散してきました。ゴールドスタイン教授によると、今回の文書は4月にセキュリティ研究者からヴァンダービルト大学に伝達されたもので、そのほとんどが中国語で作成されていました。

一方、GoLaxyは最近、自社ウェブサイトのコンテンツを修正し、中国政府との協力の痕跡を削除して、研究結果を否認しています。しかし、削除されたブログ掲示物の一つでは、GoLaxyが自社の人工知能ツールを中国公安およびセキュリティ関係者に提案した事実が明らかになっています。

結論

本稿では、中国の軍事現代化、米国のドローン防御戦略の再編、そして中国政府によるAIを活用した影響力作戦という三つの主要な側面を分析しました。中国空軍は数よりも質を重視した大規模な現代化を進め、J-20ステルス戦闘機や最新鋭の爆撃機、支援機を導入し、その作戦能力を飛躍的に向上させています。これに対し、米国防総省は、ドローン脅威への迅速な対応を目指し、新たなタスクフォース「JIATF 401」を設立し、より強力な権限と資源を集中させることで、ドローン防御体制の抜本的な強化を図っています。さらに、ヴァンダービルト大学の調査が明らかにしたように、中国政府はAI企業GoLaxyを通じて、米国の政治家やインフルエンサーのプロファイリングを行い、高度に組織化された影響力作戦を展開していることが判明しました。

これらの動向は、米中間の軍事、技術、情報戦における競争が新たな段階に突入していることを示唆しています。特にAIが「グレーゾーン葛藤」の新たな武器として利用され、その影響力が拡大していることは、国際社会にとって深刻な課題です。日本を含む各国は、これらの変化を継続的に監視し、国家安全保障と情報主権を守るための効果的な対抗戦略を構築することが急務であると言えるでしょう。

参考文献