「せっかく“いい会社”にいるはずなのに、なぜか毎日が楽しくない」――多くのビジネスパーソンが抱える、言葉にしにくいこの「キャリアのモヤモヤ」は、現代日本の職場環境、特に「管理職」の役割の変化に深く根ざしています。かつては憧れのゴールだったはずの管理職が、今や「罰ゲーム」とまで言われるその実態について、新刊『「いい会社」のはずなのに、今日もモヤモヤ働いてる』の内容に基づき、その正体を深く掘り下げていきます。
「憧れの役職」から「罰ゲーム」へ:変貌する管理職の現実
日本の多くの企業において、「管理職」というポストは、もはやキャリアの頂点や目標とは見なされていません。ある調査では、一般社員の半数以上が「管理職になりたくない」と回答しており、その背景には明確な理由が存在します。仕事量と責任が飛躍的に増加するにもかかわらず、給与の上昇がそれに全く見合わないという、厳しい現実があるのです。
かつては「出世すれば給料が上がる」という分かりやすいインセンティブがありましたが、現代では状況が一変しました。管理職と一般職の給与差は年々縮小し、部長職に昇進しても手取りの実感はほとんどない、という声も少なくありません。増えた分の多くが税金や社会保険料に消え、実質的な経済的メリットは限定的となり、「管理職の過労」と「報われない昇進」が問題視されています。
増え続けるタスクと一手に引き受ける構造
給与の伸び悩みとは裏腹に、管理職が背負うタスクは雪だるま式に増え続けています。部下の退職があればその責任を負い、日常的な面談、評価、資料修正、進捗確認、トラブル処理といった業務に加え、最近ではハラスメント防止、メンタルヘルスケア、キャリア支援、ダイバーシティ推進、そして「心理的安全性」の確保まで、あらゆる課題が管理職の仕事として押し付けられています。
仕事に追われ、疲労困憊の表情を見せる中間管理職の男性。山積みの書類が多忙な責任と業務量を物語る。
さらに、働き方改革が皮肉な影響を及ぼしています。表向きは「残業禁止」によって一般社員の働き方が守られる一方で、その分のタスクや責任のしわ寄せがすべて上司である管理職の肩にのしかかる構図が常態化しています。「残業は減らせ、しかし成果は出せ」という矛盾した要求の中で、結局のところ、現場の「尻ぬぐい」は管理職が「一手に引き受ける」構造となっているのです。この過剰な「管理職の負担」は、多くの組織で深刻な課題となっています。
「出世すれば報われる」物語の崩壊
このように、責任とタスクばかりが際限なく膨らむ一方で、キャリアの選択肢は細分化され、かつての「立身出世」という明確な一本道は消滅しつつあります。年収がわずかに増えたとしても、30人以上もの部下を抱え、その責任と業務量が積み重なる現状では、到底「報われる」という感覚には至りません。
「出世すれば報われる」という物語は、もはや現代の職場では通用しない幻想となり、崩壊してしまっています。結果として、多くの人々が「管理職になりたくない」と感じる「罰ゲーム」のような現実に直面しているのです。この「中間管理職の現実」は、日本社会全体の働き方とキャリアに対する認識に大きな影響を与えています。
参考文献
- 勝木健太 著: 『「いい会社」のはずなのに、今日もモヤモヤ働いてる』 (本記事は同書の一部を編集・加筆・調整した原稿です。)
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/1ce60bfe5978dd9709b39bf819e4d1131693f170