朝ドラ「あんぱん」蘭子の恋路と未来は?史実モデル・やなせたかしの妻の妹「瑛子」の波乱万丈な人生

NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者であるやなせたかしさんと妻・暢さんの生涯をモデルに、その誕生に至るまでの物語を描いています。主人公「のぶ(演:今田美桜)」の妹「朝田蘭子(演:河合優実)」と、やなせさんの恩人「八木信之介(演:妻夫木聡)」の恋愛模様もまた、多くの視聴者の注目を集める要素の一つです。第112話では、八木が蘭子の家を訪ね、雨の中で一本の傘に入り、見つめ合う緊迫したシーンが話題となり、今後の展開に期待が高まっています。

NHK連続テレビ小説『あんぱん』で朝田蘭子役を演じる河合優実さん。彼女の恋愛展開に多くの視聴者が注目しています。NHK連続テレビ小説『あんぱん』で朝田蘭子役を演じる河合優実さん。彼女の恋愛展開に多くの視聴者が注目しています。

「あんぱん」朝田蘭子の描かれ方と注目の恋愛模様

『あんぱん』における朝田蘭子の物語は、やなせたかしさんの生涯を基にした他の部分とは異なり、フィクション要素が強いとされています。『アンパンマン』誕生までの経緯はやなせさん自身の著作などでも語られる史実に基づいている一方で、蘭子と八木の恋愛ストーリーはドラマオリジナルのため、今後の予測は困難です。しかし、のぶの妹という設定から、史実におけるやなせ暢さん(旧姓:池田)の妹・池田瑛さん(三女は圀さん)の人生が蘭子のモデルになっている可能性が指摘されています。史実の瑛さんの人生は、ドラマの蘭子のそれとは大きく異なる部分が多く、その対比に興味が尽きません。

史実:やなせたかしの妻・暢の妹「瑛子」の激動の生涯

やなせたかしさんと暢さんの出会いの舞台となった高知新聞時代に焦点を当てた書籍『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』(高知新聞社刊)には、瑛さんの次男である川上峻志さんのインタビューが掲載されており、そこで彼女の波乱に満ちた生涯が詳しく語られています。

暢さんの2歳年下にあたる瑛子さん(1920年~2003年)は高知で生まれ育ち、暢さんと同じ大阪の阿倍野高等女学校を卒業しました。その後、高知に戻り、南国市後免町で教員をしていた曽我部鹿一さんと結婚。鹿一さんと共に満州へ渡り、3人の子供(2男1女)に恵まれましたが、1945年8月のソ連軍侵攻を機に、鹿一さんの故郷である愛媛県今治市への引き揚げを余儀なくされます。夫・鹿一さんが兵隊にとられ戦死したという知らせを受け、生活苦の中で瑛子さんはやむなく峻志さんを養子に出し、高知へ戻ることになりました。

峻志さんの証言によれば、瑛子さんは引き揚げの際、身を守るために髪を切り、顔に泥を塗って姿を変えたといいます。また、鹿一さんは中国人からの人望が厚く、その縁で何とか引き揚げ船に乗ることができたというエピソードも残されています。

やなせスタジオを支えた「敏腕経理」としての瑛子

高知に戻った瑛子さんは、1960年代から姉の暢さんに呼ばれて東京へ移り、やなせさんの仕事を手伝うようになります。彼女はきっちりとした性格で頭も良く、暢さんから経理業務を中心に絶大な信頼を寄せられていました。

やなせさんを秘書として1992年から2013年まで支え、やなせさんの死後に株式会社やなせスタジオの代表取締役となった越尾正子さんの著書『やなせたかし先生のしっぽ ~やなせ夫妻のとっておき話~』(小学館刊)には、当時高齢で体調を崩し始めていた瑛子さんの代わりに、越尾さんがそれまで担っていた経理を含む多くの業務を引き継いだ経緯が記されています。

瑛子さんは再婚することなく、2003年にがんで亡くなった後、今治市の墓地で夫・鹿一さんと共に静かに眠っていると伝えられています。

八木信之介のモデル、サンリオ創業者・辻信太郎の結婚事情

一方、ドラマの八木信之介のモデルとされている株式会社サンリオ(前身は山梨シルクセンター)の創業者である辻信太郎さんは、会社を立ち上げる前の山梨県庁時代に既に結婚しており、1952年には長男の邦彦さんが誕生しています。

蘭子の未来と史実の交錯

瑛子さんと同じく、しっかり者として描かれる蘭子が今後、やなせさんのスタジオ(史実では有限会社やなせスタジオが設立された)で経理、いわゆる「金庫番」を担う展開は十分にあり得るでしょう。しかし、恋愛面に関しては史実とは異なる部分が多く、今後のドラマのオリジナルストーリーがどのように展開していくのか、視聴者の関心が集まっています。朝田蘭子というキャラクターが、史実の瑛子の面影をどこまで持ち、そしてどこで独自の人生を歩むのか、その行方から目が離せません。

参考文献

  • 高知新聞社『やなせたかし はじまりの物語:最愛の妻 暢さんとの歩み』
  • 越尾正子『やなせたかし先生のしっぽ ~やなせ夫妻のとっておき話~』(小学館)