フィンランドの首都ヘルシンキに位置する日本料理レストラン「Ravintola Kamome(かもめ食堂)」が、2025年9月20日をもって閉店することが発表されました。映画『かもめ食堂』の舞台として国内外から多くのファンに愛されてきた同店は、10年にわたる営業に一区切りをつけます。この突然の知らせに、公式SNSには利用者からの惜別の声や感謝のメッセージが多数寄せられています。
フィンランド・ヘルシンキにある日本食レストラン「Ravintola Kamome(かもめ食堂)」の、映画に登場する特徴的な店内風景。
映画「かもめ食堂」が火付け役となった人気と歴史
「かもめ食堂」は、元々フィンランド料理を提供するカフェ「Kahvila Suomi(カハビラ・スオミ)」として営業を開始しました。しかし、2006年に公開され大ヒットした日本映画『かもめ食堂』の撮影場所に選ばれたことをきっかけに、その運命は大きく変わります。映画のロケ地として知名度が上がり、特に日本人観光客の来店が飛躍的に増加しました。
そして2015年、当時のフィンランド人オーナー夫妻が引退する際に、その意思を引き継ぐ形で現店主の小川秀樹さんが「Ravintola Kamome(かもめ食堂)」として運営をスタートさせました。荻上直子監督・脚本による映画は、小林聡美さん、片桐はいりさん、もたいまさこさんを主演に迎え、ヘルシンキを舞台に3人の日本人女性と地元の人々との温かい交流を描き、その年の「第80回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・テン」で9位に入賞するなど高い評価を得ました。この作品は、日本における北欧ブームの火付け役としても記憶されています。
多彩な日本食を提供し、地元と観光客に愛された10年間
「かもめ食堂」は、おにぎりや寿司、焼き鳥、うなぎのかば焼き、ラーメンといったバラエティ豊かな日本食に加え、居酒屋メニューも豊富に提供し、その味は多くの人々を魅了しました。また、すし教室も開催するなど、単なる飲食店にとどまらず、日本の食文化を伝える拠点としての役割も果たしてきました。
日本をはじめとするアジア圏からの観光客はもちろんのこと、地元のフィンランド市民にも深く愛され、ヘルシンキにおける日本食レストランの代表格として親しまれてきた10年間でした。閉店の報せを受け、SNS上には「思い出の場所」「寂しい」「ありがとう」といった惜別のメッセージと感謝の言葉が溢れており、その愛されぶりを物語っています。
「守破離」の精神で次なるステージへ:小川氏の新たな展望
店主の小川さんは、10年間の営業を振り返り、「今回の閉店は一区切りであり、私たちにとっては終わりではなく、新たな章の始まり」と語っています。日本の茶道に伝わる「守破離(しゅはり)」の精神、すなわち「まずは型を守り(守)、次に型を破り(破)、そして最終的に型から離れて自らの道を見いだす(離)」という考え方を引用し、今回の決断も「新しい挑戦への一歩」と受け止めていると説明しました。
小川さんは、これまでの顧客や地域社会への深い感謝を表明しつつ、今後の事業展開について前向きな姿勢を見せています。現在は、市内中心部への移転を含む次の事業展開を検討中であり、最終的な決定には至っていないものの、将来的には「より幅広い日本の食材や文化をヨーロッパに紹介できれば」という展望を抱いています。今後の具体的な計画については、決まり次第改めて発表される予定です。
結論
ヘルシンキの「Ravintola Kamome(かもめ食堂)」の閉店は、映画ファンや日本文化愛好家にとって大きな節目となります。しかし、店主・小川秀樹さんの「守破離」の精神に基づいた新たな挑戦への意欲は、日本の食文化が今後も世界で多様な形で発展していく可能性を示唆しています。同店の閉店は一つの時代の終わりであると同時に、ヨーロッパにおける日本文化の新たな展開への序章となることでしょう。今後の小川さんの活動と、彼がもたらすであろう新しい日本の魅力に期待が集まります。
参考資料
- ヘルシンキ経済新聞 (オリジナル記事提供元)