【AFP=時事】近年、日本を訪れる外国人観光客による不適切な行動や「墓荒らし」といった迷惑行為が相次ぎ、日本社会で大きな波紋を呼んでいます。特に、ソーシャルメディアでの注目を集めるために過激な行動に及ぶケースが増加しており、在日オーストラリア大使館が自国民に対し、現地の法律と文化を尊重するよう呼びかける事態に至っています。こうした問題は、「オーバーツーリズム」が引き起こす課題の一端を浮き彫りにし、日本の観光政策における新たな対応が求められています。
相次ぐ外国人観光客による迷惑行為の実態
問題の引き金となったのは、オーストラリア人観光客とされるロッキー・ジョーンズ氏が日本の墓地でお供え物の缶酎ハイを飲み干し、その様子を動画で公開した一件です。この動画では、ジョーンズ氏がコインで缶を開けるか否かを決め、飲み干した後に墓前でげっぷをする場面も映されており、インターネット上では「神聖な場所への冒涜だ」「日本への入国禁止を」といった激しい怒りの声が上がりました。ジョーンズ氏は後に自身のインスタグラムで謝罪しましたが、この一件は氷山の一角に過ぎません。
昨年には、260万人の登録者数を持つ人気ユーチューバー「フィディアス」が仲間と共に日本国内を無賃乗車で旅する動画を投稿し、物議を醸しました。フィディアスもその後謝罪に追い込まれています。さらに、そのわずか1か月前には、「ジョニー・ソマリ」として知られる米国人動画配信者イスマエル・ラムジー・ハリド容疑者(23)が、建設現場に不法侵入した容疑で逮捕される事件が発生しました。ジョニー・ソマリ容疑者は、退去を求める建設作業員に対し、2011年の福島第一原子力発電所事故を指して「フクシマ」と繰り返し叫んだり、地下鉄車内で1945年の原爆投下に関する暴言を吐き、通勤客を困惑させたりする動画を投稿していました。
高まる日本社会の懸念と「オーバーツーリズム」問題
こうした一連の迷惑行為に対し、在日オーストラリア大使館は5月2日、フェイスブックを通じてオーストラリアからの渡航者に対し、日本を訪問する際は「適切な行動」を取り、現地の法律やルールを尊重・順守するよう異例の警告を発しました。大使館はジョーンズ氏の動画に直接言及しなかったものの、関係機関と連携し厳正に対処する姿勢を示しています。
外国人観光客の急増は、単なるマナー違反に留まらない「オーバーツーリズム(観光公害)」の問題も深刻化させています。象徴的な例として、山梨県富士河口湖町では、コンビニエンスストアの屋根越しに富士山を撮影できる人気スポットで、完璧な写真を撮ろうと道路に飛び出す観光客が後を絶たなかったため、昨年、視界を遮る大きな目隠しフェンスが設置されました。
富士山と外国人観光客の観光マナー問題を示す山梨県富士河口湖町のコンビニエンスストア前の様子
観光客の無秩序な行動や文化・生活習慣の摩擦に対する日本人からの不満は高まりつつあります。このような背景から、7月の参院選では「日本人ファースト」を掲げ、オーバーツーリズムや移民問題への懸念を訴える参政党が議席を獲得するなど、政治的な動きにも影響を及ぼしています。
観光立国としての課題と今後の展望
日本は観光立国として外国人観光客の誘致を推進していますが、その一方で、文化的な摩擦や地域住民との共存といった新たな課題に直面しています。個人の自由な表現としての動画投稿と、公共の場や他者の文化・感情を尊重する行動とのバランスは、国際社会全体に問われるテーマです。
これらの事例は、日本を訪れる全ての観光客に対し、訪問国の文化、法律、人々の生活への深い理解と尊重が不可欠であることを示唆しています。今後、政府や地方自治体は、観光客への明確な情報提供と啓発活動を強化するとともに、地域住民の生活環境保護と持続可能な観光の両立を目指すための具体的な対策を講じることが急務となっています。
参考文献
- AFP=時事通信(2024年5月2日). 「日本の墓地でお供え物の酒飲み干す動画、豪大使館が自国民に注意喚起」. Yahoo!ニュース.
- AFPBB News (2024年5月2日). 「日本の墓地でお供え物の酒飲み干す動画、豪大使館が自国民に注意喚起」. AFPBB News.