エルメス級から半値以下へ:韓国シャインマスカットの失墜と農家の悲鳴

かつて「葡萄界のエルメス」と称され、中国の富裕層をも魅了したシャインマスカットが、今やその輝きを急速に失い、韓国の生産農家は厳しい状況に直面しています。数年前には高値で取引されていたこの高級ブドウは、市場での地位を大きく下げ、価格は半分以下に暴落。供給過剰と品質低下がその背景にあり、農家は採算すら困難な窮地に追い込まれています。

価格は5年で半減、農家の採算性悪化

韓国農水産食品流通公社(aT)の最新統計によると、2025年9月1日時点でのシャインマスカット(Lサイズ・2㎏)の小売価格は2万1049ウォン(約2240円)まで下落しています。これは前年比で12.4%、平年比では41.1%もの大幅な下落です。特に注目すべきは、2020年9月に記録した4万7860ウォン(約5092円)から、わずか5年間で価格が半減したという事実です。現在では、低価格で知られる巨峰とほぼ同水準で取引されています。

韓国ソウルの大型マートで果物コーナーを巡る買い物客、シャインマスカットの価格下落を示す韓国ソウルの大型マートで果物コーナーを巡る買い物客、シャインマスカットの価格下落を示す

韓国葡萄会慶北支部のキム・ヒス支部長は、現状の厳しさを訴えます。「1房あたり1000ウォン(約106円)以上の生産コストがかかるにもかかわらず、今の純利益は2500ウォン(約266円)程度に過ぎません。2020年頃には7000ウォン(約745円)の利益が出ていましたが、今では生産費すらまかなえない状況です。」この発言は、シャインマスカットを主力とする農家が直面している深刻な経営危機を浮き彫りにしています。

供給過剰が市場を飽和状態に

このような価格暴落の最大の要因は、韓国国内におけるシャインマスカットの供給過剰にあります。韓国農村経済研究院の調査によれば、ブドウ栽培面積に占めるシャインマスカットの割合は、2017年のわずか4%から、2020年には22%、そして2022年には41%へと急激に拡大しました。栽培が比較的容易で、日持ちもするという特性から、新規参入農家が殺到した結果、国内市場は急速に飽和状態に陥りました。

糖度不足が招く「品質低下」の悪循環

市場への供給量が増加する一方で、品質低下も顕著になっています。高値での早期出荷を狙ったり、見た目を大きく見せるための過大房栽培が増えた結果、十分な糖度がないまま市場に流通する実が目立ち始めました。農村振興庁のノ・ジョンホ研究員は、この問題について指摘しています。「本来、1房あたり500〜600gが適正な重さですが、中には800gから1㎏を超える房で育てる例もあります。外見は整っていても、糖度が十分に上がらず、結果的に消費者のシャインマスカットに対する評価を下げてしまっています。」

中国市場での存在感も希薄に

かつて主要な輸出先であり、高値で取引されていた中国市場での存在感も薄れています。中国向けブドウ輸出量のうち、2020年には9割以上をシャインマスカットが占め、その量は422.6トンに達していました。しかし、この数字は2024年には103.3トン、そして2025年8月末時点ではわずか38トンにまで激減しています。この背景には、中国の富裕層の関心が他の品種や他国産の高級フルーツに移ってしまったことがあります。

まとめ

「葡萄界のエルメス」とまで称された韓国産シャインマスカットは、わずか数年で価格が半減し、農家は生産費すらまかなえない厳しい現実に直面しています。供給過剰による市場の飽和、糖度不足に代表される品質低下、そして中国市場での競争力喪失が複合的に作用し、シャインマスカットを取り巻く環境は大きく変化しました。この状況は、国際的な農産物市場のダイナミズムと、高品質を維持することの重要性を改めて示唆しています。

(c) KOREA WAVE/AFPBB News