禹元植議長、ミャンマー軍政トップとの握手に波紋:国際社会の非難と韓国の外交的立場

3日、中国北京で開催された戦勝節80周年軍事パレードの際、韓国の禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長が天安門でミャンマー軍最高司令官のミン・アウン・フライン氏(69)と握手する様子が外信によって報じられ、波紋を広げています。ミン・アウン・フライン氏は、2021年のミャンマー・クーデター、抵抗する市民への武力鎮圧、そしてイスラム系少数民族ロヒンギャ族への大規模弾圧を主導した人物として、「独裁者」「虐殺者」と国際社会から強く非難されています。この握手に対し、韓国の進歩陣営の一部からは「国会議長による行為としては不適切だ」との批判の声が上がっています。

韓国の禹元植国会議長、議事堂での様子。ミャンマー軍政トップとの握手が国際的な波紋を呼んでいる。韓国の禹元植国会議長、議事堂での様子。ミャンマー軍政トップとの握手が国際的な波紋を呼んでいる。

国際社会から「独裁者」「虐殺者」と非難されるミン・アウン・フライン総司令官

ミン・アウン・フライン氏が率いるミャンマー軍は、2021年2月に国家非常事態を宣言し、選挙で正当に選ばれた民主政府を武力で転覆させ、政権の中心人物であったアウンサンスーチー国家顧問を逮捕しました。これに抗議し、独裁に反対する大規模な民主化運動が国内で起こると、ミン・アウン・フライン氏は武力鎮圧を指示。ミャンマー軍は非武装の民間人を無差別に銃撃し、これに対し民主化勢力も武装して抵抗したため、現在ミャンマーは内戦状態に陥っています。少なくとも7000人以上が軍に抵抗して命を落とし、150万人もの人々が国境を越えて難民となる人道危機が発生しています。米国や欧州連合などはミャンマー軍部に対して経済制裁を実施しており、ミン・アウン・フライン氏は昨年、大統領権限代行に就任しました。

ロヒンギャ族への大規模弾圧と国際刑事裁判所(ICC)の動き

さらにミン・アウン・フライン氏は、ロヒンギャ族への大規模な弾圧も指示しています。仏教徒が多数を占めるミャンマーにおいて、イスラム教徒であるロヒンギャ族は長年にわたり差別と迫害に苦しんできました。特に2017年には、ミャンマー軍がラカイン州で実施したロヒンギャ族に対する残虐行為により、数千人が犠牲となり、75万人がバングラデシュへの避難を余儀なくされました。この過程で、軍部による無差別虐殺や性暴力などの非人道的な犯罪行為が国際的に確認されています。この作戦を指揮した責任者もミン・アウン・フライン氏であり、昨年11月には国際刑事裁判所(ICC)検察局がロヒンギャ問題に関する責任を追及し、同氏の逮捕状を請求する事態に至っています。

ミン・アウン・フライン氏の経歴と軍部での台頭

ミン・アウン・フライン氏は1977年に士官学校を卒業し、歩兵将校としてのキャリアをスタートさせました。ニューヨーク・タイムズ紙は、彼が士官学校時代に仲間をいじめていたことで知られていたと報じています。しかし、将校となってからは謙虚な姿勢で信頼を築き、順調に昇進。2009年には特殊作戦司令官として少数民族放逐作戦を成功させて頭角を現し、2011年にはミャンマー軍総司令官に就任し、同国の軍事・政治の中心へと上り詰めました。

禹元植議長の釈明と「多国間外交」の複雑性

一連の批判に対し、禹元植議長は4日の取材で、今回の握手について釈明しました。同議長は「ミャンマーには1500人の韓国人が居住しているため、(ミン・アウン・フライン氏に対し)韓国人の安全と生活に関心を持つよう求めた」と述べ、外交上の必要性を強調。その上で、「多国間外交の場で先に握手を求められたら、断る方法はない」と、儀礼的な対応であったことを説明しました。

また、禹議長は「ミャンマーの民主化のために努力する活動家たちと連帯する思いは持っている」と、自身の立場を表明しています。実際、禹元植議長はこれまでもミャンマーの民主化運動を支持してきました。2021年に光州民主化運動41周年記念行事に出席した際には、「光州精神を受け継ぎミャンマーの民主化を実現したい」とするミャンマー代表の式辞を直接聞き、ミン・アウン・フライン氏による軍部独裁に反対する意味で現地の人々が行う「三本指の敬礼」も披露しています。

結び

禹元植国会議長とミャンマー軍事政権トップであるミン・アウン・フライン氏の握手は、国際社会がミン・アウン・フライン氏の深刻な人権侵害行為を強く非難している中で行われたため、その外交的適切性が問われることとなりました。禹議長は自国の国民保護と外交儀礼を理由に釈明しましたが、彼の過去の民主化運動支持との間で、複雑な国際関係と人道問題を巡る外交の難しさが浮き彫りになった形です。この一件は、国際的な非難に直面する政権との接触が、いかに慎重かつ倫理的な配慮を必要とするかを改めて示すものと言えるでしょう。

参考資料

  • 朝鮮日報日本語版, 「(写真:朝鮮日報日本語版)▲第22代国会の第429回定期国会(通常国会)開会式であいさつする禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長。1日撮影。」, Yahoo!ニュース, 2025年9月6日.
  • ニューヨーク・タイムズ, ミン・アウン・フライン氏に関する報道. (記事中で言及)