ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ムガイヤル村で8月、イスラエル軍による大規模なオリーブの木の伐採が行われ、数千本もの木々が根こそぎにされたことが明らかになりました。村人たちは、入植地近くで発生した銃撃事件を口実とした、生活基盤を奪う行為だと強く反発しており、国際社会からも懸念の声が上がっています。
ムガイヤル村を襲ったオリーブ伐採の経緯
西岸の主要都市ラマッラから北東へ20キロメートルに位置する人口約4000人のムガイヤル村は、古くからオリーブ油の産地として知られています。村議会によると、8月21日午前10時頃、近くのアデイ・アド前哨基地付近で村人が銃を発砲し、入植者が軽傷を負う事件が発生しました。その直後、入植者たちがイスラエル軍と共に村に現れ、軍は村の入り口2か所を封鎖し、住民に外出禁止令を発令。約250人の兵士が家々を捜索し、銃撃の容疑者を含む約10人を逮捕しました。
捜索と並行して、軍はブルドーザー9台を搬入し、村東側にある広さ0.8平方キロメートルにも及ぶオリーブ畑の伐採を開始。この畑は、約500人の村人が先祖代々受け継いできたオリーブの木を共同所有する、村の生活の糧そのものでした。
イスラエル軍の重機がヨルダン川西岸のムガイヤル村でパレスチナ人の生活の糧であるオリーブの木を伐採している様子を示す。
イスラエル軍の主張とパレスチナ住民の反発
8月23日、記者がムガイヤル村周辺を訪れると、ブルドーザーが次々とオリーブの木を倒していく様子が確認されました。イスラエル軍は記者の村への立ち入りを禁じ、翌24日には「襲撃者が逃走する際に植物に隠れたため、整地を行った」との声明を発表しています。
しかし、村のマルズク・アブーナイム副村長(65)は、イスラエル軍の行動の裏には別の狙いがあると憤りを隠しません。アデイ・アド前哨基地の下では、現在、入植者専用道路の造成工事が進められており、伐採されたオリーブ畑の跡地を通って別の前哨基地につながる計画があるといいます。前哨基地は将来的に、政府公認の入植地へと拡大される見込みです。「イスラエルはオリーブ畑を潰し、土地を奪い、最終的には村人たちを追い出すつもりだ」と副村長は語り、この一連の行為がパレスチナ人の土地強奪と強制移住を目的としたものであると強く訴えています。
結論
ヨルダン川西岸ムガイヤル村でのオリーブ伐採は、単なる治安維持活動ではなく、イスラエルによる入植地拡大とパレスチナ人の生活基盤破壊という、より広範な占領政策の一環として捉えられています。パレスチナ人にとってオリーブの木は、経済的な支えであると同時に、土地との歴史的な結びつきやアイデンティティを象徴するものであり、その破壊は彼らの尊厳と未来を脅かす行為に他なりません。この問題は、中東和平プロセスにおける根本的な課題を浮き彫りにし、国際社会による監視と介入の必要性を改めて示しています。
参考資料
- 読売新聞オンライン: イスラエル軍、数千本のオリーブの木を伐採…パレスチナ村人「土地を奪い、追い出すつもりだ」(2025年9月8日付)