米国ジョージア州現代・LG工場におけるICE摘発:極右政治家の通報が招く雇用と国際関係への波紋

米国ジョージア州で建設が進む現代自動車とLGエナジーソリューションの電気自動車バッテリー合弁工場において、移民・関税執行局(ICE)による大規模な不法滞在者取り締まりが行われました。この摘発が極右系の政治家トリ・ブラナム氏の通報によるものであることが判明し、米国のネットユーザーからは非難の声が殺到しています。ブラナム氏の行動は、単なる移民問題を超え、米国の雇用喪失や国際的な投資環境、さらには米韓関係にまで深刻な影響を及ぼす可能性が指摘されており、その動向が注目されています。

極右政治家の通報と大規模な摘発の背景

今月初め、米国土安全保障省所属の警察官が、拳銃と手錠を装備し、ジョージア州エラベルにある現代自動車グループとLGエナジーソリューションの合弁工場建設現場を急襲しました。この取り締まりの結果、約300人の韓国人を含む475人が不法滞在の疑いで検挙されました。事態の背景には、共和党所属の極右政治家トリ・ブラナム氏がICEに情報を提供したことが挙げられます。トランプ支持を公言する元海兵隊員として知られるブラナム氏は、自身のFacebook投稿で、この工事現場に関する情報をICEに通報したことを公にしました。

自身の通報行為を明かした直後から、ブラナム氏の元には激しい抗議が殺到しています。彼女はFacebookで「私の音声メールボックスを憎悪でいっぱいにし、私を反人種差別講座に登録し、ついには私の命まで脅かした、すべての方々に本当に感謝する」と皮肉を込めて述べました。さらに、未成年である自身の娘たちに対しても「憎悪を込めた侵害行為が加えられている」と明かし、家族の個人SNSまで探し出して嫌がらせを受けていると訴えています。

米ジョージア州の現代自動車・LGエナジー合弁工場でICEによる不法滞在者取り締まりが実施される様子(右)と、通報を明かした極右政治家トリ・ブラナム氏(左)。米ジョージア州の現代自動車・LGエナジー合弁工場でICEによる不法滞在者取り締まりが実施される様子(右)と、通報を明かした極右政治家トリ・ブラナム氏(左)。

ネットユーザーからの激しい非難と懸念の声

ブラナム氏のFacebookには、彼女の通報行為を不適切だと批判するコメントが相次いでいます。あるネットユーザーは「逮捕された475人のうち300人は、新たな工場を建設したり、既存の工場で米国人労働者たちに装置の扱い方を教えたりするために派遣されている韓国人の臨時労働者たちだ」と指摘。さらに「韓国で開発された技術をきちんと習得するまでは、韓国の人材が現場にいなければならない。韓国人がICEによって手錠をかけられるようなことが続くと、韓国も自国民の米国への臨時派遣をやめる可能性がある」と懸念を示しました。別のユーザーも、「バスに乗せられた労働者のほとんどが、現代自動車の工場建設現場で働いていた人々だ。これから残された現場で誰が建設にあたるのか見ものだ」と、今後の工事への影響を危惧しています。

米国最大の掲示板サイト「レディット(reddit)」やソーシャルメディアX(旧ツイッター)でも、今回の事態が米国の雇用減少を招くとの懸念が広がっています。あるユーザーは「現代がジョージアから撤退し、8500の雇用が消えれば、彼女の選挙区の住民たちはその決定に非常に満足すると確信する」と皮肉り、ブラナム氏の行動が地元経済に及ぼす悪影響を強調しました。別のユーザーは、「外国の自動車メーカーは、ICEと衝突するコストに人件費削減効果ほどの価値がないことに気づくか、あるいはできるだけ自動化を推進しようとするだろう。どちらにせよ、雇用は予想より減らざるを得ないだろう」と、長期的な視点での雇用減少を予測しています。

X上では「白人至上主義的なMAGA(米国を再び偉大に)の憎悪心理のために韓国との15億ドル規模の契約を台無しにするとは、どれほど愚かなのか」、「韓国はジョージアで進められている事業と工場を米国以外に移そうとするだろう」といった強い批判的な反応が見られます。

ブラナム氏が、企業がコスト削減のために違法な労働力を搾取していると主張していることに対し、ネットユーザーの反応は冷淡です。あるユーザーは「人をICEに通報しておきながらうそをつくな。彼らがいくらもらっているか気にしたこともなく、強制労働にも関心がない。あなたは厚かましい機会主義者にすぎない」と痛烈に批判しました。さらに別のユーザーは、「あなたは、屋根裏部屋の環境は苛酷すぎると言って、アンネ・フランクをゲシュタポに通報したはずだと断言する」とまで述べ、ブラナム氏の行動が外国人嫌悪に基づいていることを指摘しています。

米韓関係への影響と将来的な課題

今回の事態は、単なる国内問題に留まらず、米韓の経済協力関係にも影を落とす可能性があります。韓国企業は、米国における大規模な投資を通じて雇用創出に貢献していますが、今回のICEによる摘発とそれに対する政治家の対応は、外国企業が米国での事業展開を再考するきっかけとなりかねません。特に、現代自動車とLGエナジーソリューションの合弁工場は、電気自動車(EV)バッテリー供給網の強化という米国の経済安全保障上の重要課題にも関わるプロジェクトであり、その中断や遅延は、米国のEVシフト戦略にも影響を与える可能性があります。

ブラナム氏はジョージア州第12選挙区の連邦下院議員の予備候補として出馬しており、選挙での自身の勝利のために外国人嫌悪感情に寄りかかっている、とも指摘されています。あるネットユーザーはXに「選挙キャンペーンにより多くの関心と資金を引っぱってこようという愚かな試みに過ぎない」と述べ、また別のユーザーは「トリ・ブラナムの武勇伝のせいでジョージアの住民は数百の高賃金の雇用を失うことになるだろう。彼女はそれを自分の功労だと喧伝して票まで欲しがってるって? 一体なぜそんなことをするのか」と述べ、政治的野心のために地元経済と住民の利益を犠牲にしていると非難しています。

結論

米国ジョージア州での現代自動車・LGエナジーソリューション合弁工場に対するICEの摘発は、極右政治家トリ・ブラナム氏の通報に端を発し、米国の雇用、国際的な投資環境、そして米韓関係に深刻な影響を及ぼす可能性を浮き彫りにしました。ネットユーザーからの激しい非難は、ブラナム氏の行動が単なる不法移民問題ではなく、外国人嫌悪を利用した政治的動機に根ざしているとの認識を示しています。このような排他的な動きが続けば、米国は将来的に重要な外国からの投資を失い、国際社会における信頼と競争力を損なう危険性があります。政治家は短期的な利益や個人的な野心のために、長期的な経済的・社会的な利益を犠牲にすべきではありません。


参考文献: