石破茂首相の辞任表明を受け、自民党内では「ポスト石破」を巡る総裁選レースが熾烈を極めている。中でも注目を集めるのが、前回総裁選で首相の座に肉薄した高市早苗前経済安全保障担当相だ。安倍晋三元首相の後継者を自認する高市氏は、日本銀行と連携した「異次元の金融緩和」と大規模な財政出動で株価を「爆上げ」させた「アベノミクス」の政策継承を志向しており、財政規律を重視する財務省を敵視する「リフレ派」からの期待が強い。しかし、「超」がつくほどの右派として知られる高市氏の台頭には警戒感も多く、党内からは「高市だけは首相にしてはいけない」(党重鎮)との声も上がっているのが現状である。
「アベノミクス」継承を掲げる高市氏の戦略
高市氏は、経済政策の柱として故安倍元首相が推進した「アベノミクス」の踏襲を明言している。具体的には、日銀との協調による大規模な金融緩和と、財政出動を組み合わせた経済活性化策である。この政策は、株価上昇を通じて景気回復を図るもので、デフレ脱却を目指す「リフレ派」からの強力な支持を得ている。しかし、その実現には、国の財政健全化を重んじる財務省との対立が不可避と見られている。このような高市氏の経済政策は、党内の賛否を分ける要因の一つとなっている。
「日本初の女性宰相」への野心と過去の総裁選
「それは、心にとっくに決めています」。9月2日に自民党本部で開かれた両院議員総会後、高市氏は報道陣に対し、次期総裁選への出馬意向を強く示唆した。この日の総会では、7月の参院選大敗後も政権に居座り続けた石破首相への批判が集中しており、自民党史上初の「臨時総裁選」開催が現実味を帯びる中で、高市氏の発言は「次期総裁選出馬への明確な意思表示」(全国紙政治部記者)と受け止められた。高市氏の視線はすでに「日本初の女性宰相」の座に向けられており、その野心は隠しようがない。
昨年9月に行われた自民党総裁選では、河野太郎氏ら9人が立候補する中で、高市氏は国会議員票と党員・党友票を合わせて1回目の投票でトップを獲得した。その後の石破氏との決選投票で惜敗したものの、首相・総裁の座は手の届くところまで近づいていた。
麻生太郎氏が仕掛けた「石破おろし」と高市氏支援の背景
自民党総裁選の鍵を握る麻生太郎最高顧問
高市氏を有力候補へと押し上げた立役者の一人が、麻生太郎最高顧問である。麻生氏が高市氏の支援に回った背景には、石破首相に対する深い「怨念」があるとされる。石破氏は麻生氏が首相を務めていた時期に農林水産大臣のポストにありながら「麻生おろし」に加担した経緯があり、以来「石破だけは総理総裁にしてはいけない」が麻生氏の持論となっていた。そのため、前回総裁選では、優勢が伝えられていた石破氏の当選を阻止すべく、高市氏にその期待を託したのだ。
当時、麻生氏は総裁選投票日直前、自身が率いる派閥「麻生派(志公会)」の所属議員に対し、高市氏への投票を厳命した。さらに、一部メディアに「高市支持」の情報をリークすることで、党内に揺さぶりをかけたとも報じられている。今回の「石破おろし」の流れも、麻生氏が主導したと見られている。参院選敗北後に石破首相へ早期退陣を促し、それが受け入れられないと見るや、総裁選の前倒しに向けた政局を仕掛けたのだ。総裁選前倒しの可否を決定する9月8日の総裁選管理委員会の会合前には、永田町で麻生氏周辺による票読みの数字が出回るなど、その影響力の大きさが浮き彫りとなった。
次期総裁選は、高市氏の政策と「日本初の女性宰相」への野心、そして麻生氏の政治的思惑が複雑に絡み合い、一層の混戦が予想される。