中国「抗日戦勝80周年」軍事パレードの裏側:権威主義国家が描く新国際秩序の意図

2025年9月3日、中国は北京の天安門広場で「抗日戦勝記念80周年」を祝う大規模な軍事パレードを開催しました。この式典には、習近平国家主席が主賓として招いたロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記をはじめ、ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官、キューバのディアス=カネル大統領といった、いずれも強権的な統治で知られる指導者たちが顔を揃えました。第二次世界大戦におけるファシズムに対する勝利を祝うはずのこの式典に、なぜ彼らが集結したのか。その知られざる狙いは、単なる歴史的記念にとどまらず、世界に新たな秩序を構築しようとする権威主義国家の明確な意図を映し出しています。

中国の抗日戦勝記念軍事パレードに出席し、並んで立つ習近平、プーチン、金正恩。強権的な指導者たちの連帯を示す場面。中国の抗日戦勝記念軍事パレードに出席し、並んで立つ習近平、プーチン、金正恩。強権的な指導者たちの連帯を示す場面。

権威主義国家の連帯:パレードの背後に潜む「北京コンセンサス」

この軍事パレードに集まった指導者たちの顔ぶれは、極めて皮肉な構図を呈しています。「専制からの解放」を記念する場で、彼ら自身が専制政治を実践する国家のトップであるからです。プーチン大統領率いるロシアは、まさに今、ウクライナで第二次世界大戦以来最大規模の侵略戦争を続けています。金正恩総書記の北朝鮮は、地球上で最も過酷な政治的抑圧システムを維持する世襲独裁国家であり、ミャンマーは軍事クーデター以降、内戦の泥沼に深く陥っています。キューバもまた、一党独裁体制を堅持しています。

これらの指導者を結びつけている共通項は、国家権力の集中、異論の封殺、そして民主的な説明責任の拒絶です。天安門広場でのこの集まりは、「北京コンセンサス」と呼ばれる統治モデル――代議制民主主義よりも権威主義を、市民の権利よりも国家の力を、法の支配よりも人治を優先する考え方――を、これ以上なく鮮明に世界に示しました。彼らは、リベラルな国際秩序に対抗し、多極化した世界において自らの影響力を拡大しようと連携を深めているのです。

歴史を武器とする戦略:中国からロシア、北朝鮮へ

中国がこのような演出を選んだ背景には、歴史を現代政治の道具として利用する巧妙な戦略があります。作家・政治学者である鄭王(ジェン・ワン)が著書で分析するように、中国共産党は長年にわたり、自らに都合の悪い歴史を選択的に忘却しながら、「永遠の被害者」という物語を構築してきました。特に象徴的なのが、1989年の天安門事件に対する扱いです。英ジャーナリストで政治学者のルイザ・リムが指摘するように、日本に対して戦時中の残虐行為を「決して忘れるな」と要求する一方で、自国民に対する弾圧は徹底的に記憶から消し去ろうとする矛盾が存在します。

この歴史認識の歪曲は、中国に限った話ではありません。イェール大学教授のティモシー・スナイダーが明らかにしたように、プーチン大統領もまた、ウクライナ侵攻を正当化するために「ウクライナ人とロシア人は一つの民族」という歴史的根拠に乏しい主張を展開し、領土拡張を正当化する神話を作り上げています。北朝鮮の場合はさらに極端で、政治学者のブライアン・R・マイヤーズが詳細に分析したように、金王朝は完全に架空の建国神話を作り上げ、金日成を神格化する一方で、彼を権力の座に据えたソ連の役割を歴史から抹消するという、歴史の改ざんを行ってきました。

結論

中国が主導し、ロシア、北朝鮮などの権威主義国家の指導者たちが集結した「抗日戦勝記念80周年」軍事パレードは、単なる歴史の追憶ではなく、既存の国際秩序に対する明確な挑戦と、新たな権威主義的秩序の構築に向けた連帯を示唆しています。歴史を政治的目的に合わせて利用し、自らの正当性を主張する彼らの戦略は、民主主義的価値観に基づく国際社会にとって重大な警鐘となります。日本を含む各国は、この権威主義国家間の連携が国際政治に与える影響を深く分析し、これからの世界情勢の変化に備える必要があるでしょう。

参考文献