EVモーターズ・ジャパン製EVバスに相次ぐ事故と不具合:高まる安全性への懸念

2023年9月1日、大阪メトロの子会社が運行するオンデマンドバスが中央分離帯に激突する前代未聞の事故が発生しました。この事故のドライブレコーダー映像には、運転手が回避行動を取ったにもかかわらず、バスが意図しない方向へ進み衝突する様子が記録されており、運転手の「ハンドルが利かなかった」という証言の正しさを明確に示しています。しかし、当該車両を販売したEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は、事故原因を「運転手のわき見運転」と結論付けたという疑惑が浮上しており、その企業姿勢と中国製EVバスの安全性に対する深刻な懸念が広がっています。

頻発する不具合と隠蔽疑惑:大阪メトロEVバス衝突事故

9月1日の大阪メトロ系オンデマンドバス衝突事故は、EVMJが販売する中国福建省WISDOM社製EVバスで発生しました。運転手はハンドルを左に切ったものの、バスは右に進み中央分離帯に激突。運転手の証言と映像は車両の不具合を示唆していますが、EVMJの上層部検討会では「運転手のわき見運転」が事故原因と結論付けられたと関係者は証言しています。これは社内にも同様に報告されたといい、事故原因の隠蔽疑惑が深まっています。

EVMJのEVバスに関するトラブルはこれだけにとどまりません。同年4月28日には、大阪・関西万博の駐車場で回送中のシャトルバスがコンクリート擁壁に接触する事故が発生。EVMJはこの事故原因を外付けの自動運転システムにあるとし、「EVバス車両側の不具合ではない」と発表しました。しかし、国土交通省(国交省)はドアの開閉不良や走行中の緊急停止など、車両側の不具合も報告されていると指摘しています。

福岡県北九州市に本社を置くEVMJは、2019年設立のスタートアップ企業で、主に中国3社(WISDOM、恒天、愛中和)のEVバスを輸入・販売しています。2022年には実績がほぼない状態で大阪・関西万博向けにEVバス100台(最終的に150台)を受注し注目を集めました。その後、阪急バス、伊予鉄バス、富士急バス、東急バスなど、日本の主要バス事業者が続々と同社のEVバスを導入し、2025年3月末には300台以上に急増する見込みです。

しかし、導入台数の急増に比例して不具合報告も多数寄せられています。故障やブレーキ部品の脱落、重要保安部品の破断や脱落といった信じられないような不具合が報告されており、公共交通機関としての安全性に対する疑問が深まるばかりです。

「国産」の虚偽と深刻な車両トラブル

「国内初のEVスクールバス」として導入された福岡県筑後市のEVバスも、今年4月の導入前からテスト段階で不具合が頻発。運行開始からわずか2週間で全4台が運行中止となりました。点検・改修を経て6月上旬に運行再開したものの、その日に自動ドアセンサーのトラブルが発生し、再びEVMJ本社に戻される事態に。10月1日には契約が解除され、同市内のスクールバスは全てディーゼルバスに戻されています。導入台数トップの愛媛県松山市「伊予鉄バス」でも、購入した20台以上の車両で多数の不具合が発生していると報じられています。

冒頭の「操作不能動画」もこうした一連のトラブルの最中に発生しました。大阪メトロのバス運転手からは、「日頃から雨漏り、エアコン不具合、ドアの故障などが頻繁にありました。走行中にネジや点検口の蓋が落下することも。坂の途中や交差点の真ん中で急に動かなくなり、レッカー移動するケースも多発しています。お客様の安全を守れないため、一度全車両の総点検を訴えてきましたが、聞き入れてもらえず、今回の衝突事故に至ったのです」といった切実な声が上がっています。

EVモーターズ・ジャパンが万博へ供給する中国製EVバス。相次ぐ不具合で安全性に懸念が広がるEVモーターズ・ジャパンが万博へ供給する中国製EVバス。相次ぐ不具合で安全性に懸念が広がる

国交省の「全車両総点検」命令と報告の透明性

このような状況を重く見て、国交省は9月5日、EVMJが扱う万博バスを含む全国のEVバスに対し「全車両総点検」を命じる異例の発表を行いました。しかし、この点検が適正に行われるかについては疑問が残ります。業界関係者は、「EVMJは点検項目で異常が認められても、報告書を提出する際には客先の担当者に『異常なし』と虚偽の報告をしているのが現状です。大阪メトログループの複数の現場で、記入済みチェックシートと報告された点検結果表を照合した結果、虚偽報告が確認されています。おそらく国交省にも異常なしで報告される可能性が高いでしょう」と明かしています。

そもそも、これほど不具合の多い中国製EVバスが、万博に1社独占で大量採用された背景には、「国産EVバスである」という誤った認識が広まったことも関係しています。2023年4月15日、西村康稔元経産相は自身のX(旧Twitter)で、万博シャトルバスの約9割が「日本企業製造のバス」であると投稿しました。

しかしEVMJは日本の企業であるものの、「製造」は行っていません。同社は中国のEVバスを輸入・販売する会社であり、インバーターなどの主要部品を含め全て中国メーカーの仕様で製造されています。100億円を投じて完成させた北九州市の工場で行われているのは、料金箱や乗降用ボタン、行き先表示などの設置に留まり、これを「国産EVバス」と呼ぶには無理があります。

EVMJに対し、9月1日の衝突事故原因、北九州工場の製造工程、国交省の総点検への対応について質問状を送ったところ、期日までに以下の回答がありました。「完成車を並行輸入という形で国内に輸入しておりますが、(中略)日本が求める品質・安全水準と更なる技術向上に資するべく、国内仕様への架装のみならず、当社品質管理基準に基づく車両検査、テストコースを用いた安全性・走行性能等の各種試験・検証、EVバスおよび充電システムの設計・開発業務などを実施しております。現在、大阪メトロ様と事故原因について検証を続けております。(全車両点検については)正確な情報を正しくお伝えすべく、総点検完了後に経緯等含めて公式に発表できるよう準備を進めております。」

行政の動きと残る課題

行政も問題解決に向けて動き始めています。環境省補助金の執行団体であるJATAは9月26日、「不具合が多発しているEVMJのバスに関する補助金申請には留意してください」と注意喚起を行いました。また、国交省もEVMJが扱う一部のバスに対し、ノンステップバスの認定をしないことを新たに決定しています。

しかし、大阪メトロや伊予鉄バスでは、年内にEVMJが扱う新しい中国製EVバスの導入を予定しているといいます。数々の不具合や事故が発生し、現場のドライバーから「怖くて乗れない」と悲痛な訴えが上がる現状に対し、運行事業者が十分な精査を行っているのか、疑問が残ります。公共交通機関の安全性は、社会の基盤を支える重要な要素であり、透明性と信頼性に基づいた対応が強く求められています。

参考文献

  • FRIDAYデジタル: https://friday.kodansha.co.jp/article/335805 (オリジナル記事の参照元)
  • 国土交通省 (MLIT) 関連発表 (間接的情報源)
  • JATA (環境省補助金執行団体) 関連情報 (間接的情報源)