「冬眠しないクマ」各地で目撃 子グマが人里に出没、その背景と深刻な懸念

今年は全国各地で「冬眠しないクマ」、通称「穴持たず」の目撃情報が相次いでおり、特に子グマの出没が顕著です。例年ではクマの活動が減少するはずの12月に入っても、人里での遭遇事例が報告されており、地域住民の間に不安が広がっています。この異例の事態の背景には、クマの生態系に影響を与える複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられます。最近では富山県で高齢夫婦がクマに襲われる痛ましい事件が発生し、その危険性が改めて浮き彫りになりました。

富山で発生した高齢夫婦襲撃事件

12月4日未明、富山市婦中町の住宅地で、新聞配達中の高齢夫婦がツキノワグマに相次いで襲われました。午前2時40分頃、75歳の夫が襲われましたが、80代の住人の機転で撃退しました。その後、付近で配達中の70歳の妻も襲われ、顔などに大怪我を負いました。幸い命に別状はありませんでしたが、現場には大量の血痕が残り、住民は不安を抱えています。体長約1メートルのクマは子グマの可能性が高く、現在も逃走中です。

目撃されたツキノワグマの様子目撃されたツキノワグマの様子

全国に広がる「冬眠しない子グマ」の目撃

富山以外でも、12月に入って北海道、青森、新潟、長野、山口の各県で子グマの目撃情報が報告されています。岩手県の北上市猟友会会長・鶴山博氏(76)は、例年11月下旬にはクマを見かけないが、今年は12月に入っても複数回、全て子グマが目撃されたと証言しています。11月28日には小学校敷地内で捕獲された子グマの鋭い爪から、幼獣でも人を傷つける危険性が改めて認識されました。通常、クマは冬眠期間に入りますが、今年は「冬眠しないクマ」、特に子グマの出没が際立っています。山梨県では昨年11月の子グマ目撃が7頭に対し、今年は20頭と約3倍に増加しています。

エサ不足と駆除増加がもたらす連鎖

鶴山会長は、この異常事態の背景に二つの主要因を挙げています。一つは、クマの主要なエサであるドングリが今秋は「凶作」であったこと。食料を求めて多くのクマが人里に下りてくる原因となっています。これにより、駆除数も大幅に増加し、鶴山氏の管轄エリアでは昨年5〜6頭だったのが、今年はすでに40頭近くに達しています。

もう一つは、親グマの駆除が増えた結果、「親を失った子グマ」が数多く生み出されている可能性です。本来、子グマは親から冬眠の方法や生存術を学びます。しかし、親を失うことでこれらの子グマが適切な冬眠の準備ができず、「穴持たず」として冬の人里に出没することにつながっていると推測されます。これは、今後新たなクマ被害が増加する可能性を示唆しており、社会全体での対策が急務となっています。

「冬眠しないクマ」、特に親を失った子グマの相次ぐ出没は、エサ不足と駆除増加という複合的な要因が引き起こす深刻な社会問題です。富山での痛ましい事件が示すように、冬期であってもクマによる人身被害のリスクは高まっており、地域住民は常に警戒を怠ることはできません。私たちは、クマの生態系への理解を深めるとともに、適切な情報共有と効果的な対策を通じて、人とクマが共存できる社会の実現に向けて取り組む必要があります。行政、猟友会、そして住民が連携し、この冬の新たな脅威に立ち向かうことが求められます。


参考文献: