オーストラリア東岸から600km離れたロードハウ島にかつて生息していた昆虫、ロードハウナナフシ(学名:Dryococelus australis)は、一時はあまりに数が多かったため、地元の漁業者が釣り餌として使用していた、と伝わるほどだ。
【画像】ナナフシが再発見されたロードハウ島から約23km離れた岩「ボールズ・ピラミッド」
しかし、1918年のこと。マカンボ号という補給船が、この島で座礁した。そして、その船に乗っていたネズミたちが島に上陸した。ネズミたちはもともと、いわば悪意のない「密航者」だったが、上陸するとたちまち島の全土に広がった。ネズミたちは、島に住む動物たちを捕食し、ロードハウナナフシ(と多くの在来種)を局所絶滅に追いやった。
1930年代初頭までに、ロードハウナナフシは完全に絶滅したと考えられる状態になっており、19世紀末に収集された博物館収蔵の標本が、この種の「知られているものとしては最後」の個体例と考えられていた。その後数十年にわたり、この昆虫が生き延びている可能性を信じられる理由はまったくなかった。
だが、どういうわけか、数十年経って、まったく別のところで彼らが生存していたことが判明した。
■絶海の岩山で生存が確認されたロードハウナナフシ
ロードハウナナフシが再発見され、科学界を驚嘆させたのは2001年のことだった。ロードハウ島から約23km離れた場所にあった岩「ボールズ・ピラミッド」でロッククライミングしていた人たちから、大きなナナフシの死骸を見つけたという報告が相次いだため、この年、生物学者と、環境保護を担当する州政府の職員からなる調査チームが、ボールズ・ピラミッドの断崖をよじ登り、調査を行なったのだ。
ポールズ・ピラミッドは火山の名残で、海面から550m近く突き出した海食柱(海によって岩盤が侵食されて形成された、柱のような形状の岩)だった。
調査チームは、風に吹きさらされた1本の灌木(学名をMelaleuca howeanaというティーツリーの一種)の下、岩に開いた溝や裂け目の中に、生きたロードハウナナフシが24匹、隠れているのを見つけた。
数こそ多くなかったとはいえ、それらは確かに生きた個体だった。そこに生息していた昆虫は巨大で、夜行性という特質を持ち、見間違えようがなかった。
とはいえ、オリジナルの標本と比べると体色が濃く、よりがっちりとした体躯をしていた。この小さな差異を目の当たりにした調査チームは、これはロードハウナナフシと同種の個体なのか? それとも近縁種なのか? との疑問を抱かざるを得なかった。
この疑問への答えが判明するまでには、さらに16年を要することになる。
■ロードハウナナフシの生存が裏づけられるまでの長い道のり
懐疑的な目で見れば、ボールズ・ピラミッドで発見された昆虫が、かつてロードハウ島に生息していたものと本当に同じ種なのか、疑いの余地があるのはもっともだった。結局のところ、ロードハウ島に生息していた個体群は、何十年も前に消え去っている上に、ボールズ・ピラミッドで見つかった個体は色が濃く、ずんぐりしていて、博物館の標本の特徴だったほっそりとした体躯とはかけ離れているように見えたからだ。






