香港で半年以上続く若者たちの反政府・反中デモ。「愛国教育が足りないからだ」と中国政府は香港の教育システムを問題視する。特にやり玉に挙げているのが「通識」教育である。
英領時代から続く科目で、2009年に高校の必修となった。社会問題などさまざまな課題を生徒に与え、考える力を育成する「探求型学習」だ。
香港政府は「詰め込み教育」からの脱却を目指したに過ぎないが、中国は「批判的思考」を育ててしまったとみる。お金もうけしか関心がない香港人を変えてしまったというわけだ。
香港島の私立校でその通識教育を担当しているのが、教師になって5年目の鍾(しょう)さん(30)=仮名=である。「答えを出さない授業です。生徒たちが自分で調べ、自分で考えます」
香港や中国の問題はもちろん、グローバル化、地球温暖化もテーマとなる。
--1989年の中国の民主化運動「天安門事件」も取り上げるのですか?
「もちろんです。『中国人民解放軍兵士の銃撃で学生らが死んだ』と教えますが、(予断を与える)『虐殺』という言葉は使いません。原因と結果は生徒に考えさせ、評価させます」
--香港の抗議活動は?
「まだ進行中なので注意を要します」。鍾さんの表情が険しくなった。
学校側からは「中国や香港警察の悪いことばかり教えるな」という無言の圧力を受け、教師側の自己規制が進んでいるという。
「今回、私自身は平和的なデモに参加したことがありますが、授業でデモを支持する発言をすると、保護者から『暴力を勧めた』と批判されかねません」
また、生徒の中でもデモの過激化については意見が分かれている。鍾さんは否定も肯定もせず、「暴力によって自分たちの要求を政府に認めさせようとするデモは香港だけではない。フランスでもあった。しかし法を犯したら、その責任も自らが負わなければならない」と教えているという。