中東海域への派遣が27日に決定した海上自衛隊は、防衛省設置法の「調査・研究」を根拠に不審船などの情報収集にあたる。不測の事態が生じた際は、政府は武器使用可能な自衛隊法の「海上警備行動」に切り替える。ただ、日本企業が運航していても船籍が外国の場合は武器による保護はできず、限定的な行動しかできない。
政府は派遣検討の初期段階では、「日本関連船舶」を武器で保護する対象に想定していた。平成21年に海賊対処を目的として海上警備行動を発令した際には、日本籍船のほか、日本企業が運航したり日本人が乗っている外国籍船なども「日本関連船舶」と位置づけた。
今回は、外務省国際法局が国際司法裁判所(ICJ)の判例を検討した結果、外国籍船を守るために実力行使はできないと判断した。武器使用のみならず、不審船の船体に当てる放水や、進路をふさぐために船体に接触する行為も実力行使にあたる。
公海における船舶は、その船籍国の管轄に属するという旗国主義が国際法上の原則。相手が海賊であれば「各国共通の敵」(外務省関係者)として船籍国以外の国も対処可能だが、今回は襲撃者の想定を海賊に限定していない。
ペルシャ湾沿岸国と外洋をつなぐホルムズ海峡は、年間4千隻近い日本関連船舶が通過する。このうち武器で保護できる日本籍船は2割程度にとどまる。6月に攻撃された日本の海運会社「国華産業」のタンカーも船籍はパナマ。もし同様の事態が起きても、武器による保護はできない。
自民党国防族の幹部は「目の前にいる船が危機なのに自衛隊が手出しできなければ、見捨てたとみられかねない」と危惧する。
外国籍船に近付く不審船に対しては、接触しない進路妨害や大音響による警告を想定している。防衛省幹部は「実力行使しない範囲でできることはする」と強調するが、状況を見極め、対応を速やかに決める判断があり、現場の司令官は難しい判断を迫られる。
それでも、政府内にそれほど危機感が強いわけではない。現在、派遣先の海域は海上警備行動が必要なほどには緊迫していないとみているからだ。不測の事態の発生が見込まれるホルムズ海峡やペルシャ湾は今回の活動範囲から除外している。
緊迫度が高くない海域にわざわざ海自を派遣するのは、原油の大半を中東に頼る日本としても中東の安定化の取り組みを「何かやらなければいけないという問題意識」(政府関係者)がある。また、同盟国の米国と情報共有を図るためバーレーンの米海軍司令部に連絡員(LO)を派遣することで、連絡員を通じてホルムズ海峡周辺などの情報も得やすくなる。(田中一世)