サッカー英プレミアリーグの強豪アーセナルのメスト・エジルがツイッターに投稿した中国批判が波紋を広げている。一連の騒動で浮き上がるのは他国の「表現の自由」も許さない、共産党独裁の全体主義国家、中国の異質ぶりである。
元ドイツ代表で3度のワールドカップ(W杯)に出場したスター選手のエジルはトルコ系で、敬虔(けいけん)なイスラム教徒であることも知られている。
エジルは中国国内でイスラム教徒の少数民族、ウイグル族が弾圧されているとして「コーランが焼かれ、モスクは閉鎖され、宗教学者は次々に殺されている」などと書き込んだ。
これを受けて中国国営の中央テレビは予定していたアーセナル戦の放送を取りやめた。中国版のスマートフォン・サッカーゲームはエジルを登録から除外した。中国の外務省もサッカー協会もエジルを批判した。異様なのは政府、サッカー界、メディアなどが一斉に排除に向く姿である。
同様の騒動はバスケットボール界でもあった。10月、米NBAのロケッツ幹部が香港のデモを支持するツイートをしたことに中国から批判が集中し、試合の放送や配信が中止となった。スポンサー企業の撤退表明も相次いだ。
「表現の自由を支持することはNBAが持つ長年の価値観だ」としたアダム・シルバーコミッショナーの発言に、中央テレビは「言論の自由は絶対ではない」と論評した。外務省の耿爽(こうそう)報道官は「中国側と交流や協力をするには、中国の民意を理解しなければ通用しない」とも述べた。
中国国内に言論の自由はない。中国との協力を望むなら、他国であろうともそのルールに従え、ということなのだろう。
現実には、NBAも欧州のサッカー界も巨大な中国資本に支えられている。ロケッツもアーセナルも、発言は個人のものでチームは関わっていないと釈明に躍起だった。中国マネーを背景とする恫喝(どうかつ)に屈した格好である。
ポンペオ米国務長官は「中国はNBAに対して影響力を行使し、関係者が自らの政治的意見を自由に表明することを封じた」「米実業界は、中国国内でビジネスを行うことに対するリスクに気付きつつある」と述べた。スポーツ界にとどまらず、全ての関係者が共有すべき認識である。