【主張】科学技術立国 人を育てる政策を掲げよ 成果偏重が「失速」を招いた

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 資源の乏しい日本が持続的に繁栄し、国際社会に貢献していくためには何が必要か。国民の多くが「科学技術」を挙げるだろう。

 令和2年、西暦では2020年代に入った。年の初めに、科学技術政策の現状を検証し将来のあり方を考えたい。

 ≪吉野彰氏のメッセージ≫

 昨年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏はこう語っている。

 「研究者は役に立たない研究を一生懸命やってほしい。目的があってするのではなく、好きな研究をする。そのほとんどは無駄になるが、無駄をやらないと、とんでもないものは出てこない」

 吉野氏は、スマートフォンなど携帯通信機器の普及を劇的に進展させ、低炭素社会の実現、地球環境への貢献が大いに期待されるリチウムイオン電池を開発した。

 とんでもなく役に立つ成果を挙げた吉野氏の後進研究者へのメッセージに、日本の科学研究の現状への強い危機感が滲(にじ)んでいる。研究者が自由な発想で研究に打ち込める環境であれば、このようなメッセージは発信しない。

 2000年の白川英樹氏(化学賞)から昨年の吉野氏まで自然科学系の3分野(医学・生理学、物理、化学)でノーベル賞を受賞した日本の研究者(米国籍2人を含む)は20年間で19人を数える。米国に次ぐ受賞者数は日本の科学研究の水準の高さを示すものである。ただし受賞業績の多くは1900年代の成果である。

 この数年、大隅良典氏(16年、医学・生理学賞)をはじめ受賞者の多くが「日本の科学研究の現場が急速に活力を失っている」などと警鐘を鳴らしてきた。その要因として短期的な成果を偏重する近年の科学技術政策を挙げた。

 英科学誌「ネイチャー」も17年3月、「日本の科学研究はこの10年間で失速し、他の科学先進国に後れをとっている」との現状分析を発表した。国の科学研究予算が01年以降横ばいで、研究者の安定したポストが少ないことが失速の要因であると分析した。

 ≪iPS「騒動」に猛省を≫

 国内外からの警鐘にもかかわらず、政府は危機的状況から脱却する施策を示せてはいない。

 昨年11月に表面化したiPS細胞(人工多能性幹細胞)の備蓄事業をめぐる「騒動」で、政府の危機感の欠如と、不透明で場当たり的な科学技術政策の形成過程があからさまになった。

 京都大教授の山中伸弥氏が開発したiPS細胞は、あらゆる臓器や組織の細胞に分化できる万能細胞のひとつで、再生医療の実用化に向け、臨床段階に入った分野もある。

 山中氏が12年にノーベル賞を受賞したことを受け、政府は22年度までの10年間に再生医療の研究開発に1100億円を拠出することを決定していた。

 昨年11月11日、山中氏の記者会見で備蓄事業への国の支援の打ち切りや減額案が政府内にあることが表沙汰になった。結果的に支援は当初予定の22年度まで継続されることになったが、「一件落着」とするわけにはいかない。

 支援の打ち切り・減額案が政府内で検討された経緯は、竹本直一・科学技術担当相が「少し別の動きもあったと聞いている」と述べただけだ。山中氏や京都大関係者がいない場で形成された不透明な政策案が山中氏らに危機感、不信感を抱かせた。

 日本を代表する科学者の一人であるノーベル賞受賞者が、科学技術政策の決定過程でないがしろにされていたのだ。この状況で、日本の将来を担う研究者が育つとは考えられない。

 政府は、野心的な研究目標を設定し画期的な技術革新(イノベーション)の創出を目指す「ムーンショット型研究開発制度」をはじめた。5年間で1000億円を拠出する。構想自体が米アポロ計画の模倣である。国主導の目標設定は、研究者の自由で独創的な発想を妨げかねない。

 政府はiPS細胞をめぐる「騒動」で露呈した長期的視野の欠如、研究者軽視を猛省し、抜本的な転換を図らねばならない。

 科学技術政策の根幹に掲げるべきは、投資に見合う成果や目標ではなく、人(研究者)を育てる理念である。

 人工知能(AI)など科学技術が目覚ましく進化し、少子高齢化が進む社会では、人材育成の重要性はさらに高まる。

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