【ベイルート=佐藤貴生、ワシントン=黒瀬悦成】米国とイランの対立激化は、米軍が駐留するイラクやイラン核合意の当事国である欧州諸国も巻き込み、中東情勢をいっそう複雑化させそうだ。イラクでは、イスラム教シーア派大国イランによるシーア派勢力との連携を背景に、米国を排除する動きも表面化してきた。
イラクのアブドルマハディ暫定首相は3日、米軍が首都バグダッドでイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したことについて「イラクの主権に対する言語道断の侵害だ」と非難。暫定首相はイラクでの司令官の追悼行事にも参加した。イラク国会は5日、外国軍部隊の駐留終了を求める決議を採択したが、投票に参加したのはシーア派系の議員が主体だ。
決議に法的拘束力はないが、トランプ米大統領は同日、イラク政府が駐留米軍の撤収を正式に求めてきた場合には「厳しい制裁を科す」と警告。実際に撤収することになれば、米国がイラクに建設した空軍基地の建設費用を支払わせるとも語った。米軍が影響力を失えば、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が再び台頭する懸念も強まる。
イランはイラクのほか、レバノンでもシーア派民兵組織に資金や兵器を供与、シリア内戦では軍事顧問を送るなどしてアサド政権を支援してきた。周辺国に親イラン勢力を植え付ける「シーア派の弧」と呼ばれる戦略で、中心となって進めたのがソレイマニ司令官だとされる。イランが自国の影響圏とみなすこれらの国では、スンニ派など他宗派の国民が反発を強めている実情もある。
イランは5日、核合意の履行を放棄する第5段階で無制限にウラン濃縮を行う方針を示し、米国との緊張関係に拍車をかけた。合意から離脱した米国の制裁再開で経済が悪化する中、支援策を一向に打ち出せない英仏独にしびれを切らし、「合意崩壊」の危機をあおる狙いがある。英仏独は核合意の維持を図りつつ、イランの弾道ミサイル開発などでは米国と懸念を共有しているため、今後困難な立場に置かれる恐れがある。