ロシア軍による無人航空機(ドローン)やミサイルを用いた攻撃により、ウクライナ国内の徴兵事務所が相次いで被害を受けていることが明らかになりました。これはロシア側が組織的にウクライナ軍の動員プロセスを妨害しようとしている兆候とみられており、既に兵員不足に直面しているウクライナ軍にとって新たな深刻な課題となっています。
近日発生した攻撃と確認
7月7日には、ロシア軍がウクライナ東部ハルキウ州や南部ザポリージャ州の市街地をドローンで攻撃し、住宅やビルなどが破壊されました。この攻撃で10人以上の民間人が負傷しています。被害を受けた建物の中には、ウクライナ軍の徴兵事務所が含まれていました。ロシア国防省も同日、複数の徴兵事務所への攻撃を行ったことを認める声明を発表しています。
攻撃パターンの分析
ウクライナ各地では、6月下旬から同様の施設への攻撃が報告されています。具体的には、6月30日には中部クリビーリフの徴兵事務所付近にドローンが落下し負傷者が出ました。続いて7月3日には中部ポルタバの徴兵事務所がロシア軍ドローンの攻撃を受け火災が発生。さらに7月6日には中部クレメンチュクでも徴兵事務所が被害を受けました。これらの連続した攻撃は、単発的なものではなく、特定のパターンを示唆しています。
ウクライナの徴兵事務所攻撃に関連するロシア軍の空爆現場で消火活動にあたる消防士たち
専門家の分析
元ウクライナ保安局(SBU)職員で、最高会議(議会)の国家安全保障・国防会議顧問を務める軍事アナリストのイワン・ストゥパク氏は、チェコのメディア「カレントタイムTV」の取材に対し、今回の攻撃について分析を示しています。同氏は、「少なくとも5回以上の類似攻撃が確認されており、これはロシア軍による組織的な動員妨害である可能性が極めて高い」と指摘しました。徴兵事務所には動員に関する重要書類が多数保管されているため、これらの施設が破壊されれば、兵員の動員プロセスは大きく滞るだろうとの見解を示しています。
ウクライナの動員に関する背景と課題
ウクライナの徴兵事務所を巡っては、これまで兵員の強引な募集や動員方法が問題視されてきました。ロシア側は、徴兵事務所職員が民間人を強制的にバスに押し込める様子などを捉えた動画を収集し、積極的に拡散することで、ウクライナの動員に対する妨害工作やプロパガンダに利用しています。
ウクライナの改革努力と新たな挑戦
ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」の報道によると、ウクライナ軍は6月、強引な動員に関与したとされる450人以上の徴兵事務所職員を配置転換するなど、体制の刷新を図っています。しかし、このような内部からの改善努力が進められる矢先に、ロシア軍が徴兵事務所への攻撃を強化したことで、ウクライナ側は徴兵プロセスにおいて新たな、より困難な問題を抱えることとなりました。
兵員不足への対応 – 外国人傭兵の募集強化
深刻な兵員不足に苦しむウクライナ軍は、この状況を打開するため、5月には西部に新しい徴兵事務所を開設し、南米諸国などからの外国人傭兵の募集を強化しています。英エコノミスト誌などが報じるところによれば、前線で活動する外国人兵士に支払われる月額給与約3000ドル(日本円で約44万円)は、南米の低所得国の平均月収の約10倍に相当します。この経済的なインセンティブに加え、ウクライナまでの渡航費用を自己負担してでも応募する外国人が増加していると伝えられています。
前線への影響
ウクライナ軍の人手不足は現在、極めて深刻な状況にあり、前線で任務に当たる兵士の長期的な拘束は避けられない状態です。兵士たちの疲弊は著しく、これが戦力の低下に直接つながる可能性が懸念されています。ロシアによる徴兵事務所への組織的な攻撃は、この既に厳しいウクライナの兵員確保と維持の状況を一層悪化させることが予想されます。
ウクライナ軍は、内部問題の解決と並行して、外部からの妨害という二重の課題に直面しており、今後の動員と兵員補充が円滑に進むかは不透明な状況です。