赤表紙のレストラン番付ガイド本「ミシュラン」は、今や世界中に広がる。
日本のシェフたちの星をめぐる闘いは昨年、民放ドラマ「グランメゾン東京」の題材になった。本国フランスでは、星を落とす恐怖で自殺者が出るほどプレッシャーは強烈。最近は三つ星を奪われたシェフが抗議してミシュランを訴え、料理界の話題をさらった。
アルプスの名店「ラ・メゾン・デボワ」を経営するマルク・ベイラ氏(69)は、黒い帽子とサングラス姿で厨房(ちゅうぼう)を指揮する名物シェフ。自家農園直送の素材を使い、玉手箱のように華やかに仕上げた料理が自慢だ。2018年、待望の三つ星を獲得。ミシュランは「悪魔のように卓越した創造性」と絶賛した。
それからわずか1年後、二つ星に格下げされた。ベイラ氏は「料理の質は全く落ちていない。審査ミスだ」と怒り心頭で昨年秋、ミシュランを提訴。調査員の資格や審査報告書の開示を要求したうえ、「格下げでうつ状態になった」として1ユーロ(約120円)という象徴的金額の慰謝料を請求した。「調査員は、サボワ地方名産のチーズ『レブロション』を認識できず、大量生産のチェダーチーズと勘違いしたのだろう」と、テレビや新聞で不満をぶちまけた。
注目の判決は、昨年のおおみそかに出た。パリ郊外、ナンテール裁判所は「審査員の評価は、表現の自由に基づく」としたうえで、「原告は、評価の独立性を損なうに足る正当な理由を示していない」と断じた。名物シェフの完敗だ。