■「好き」を肯定する笑い
先日、「M-1グランプリ2019」決勝戦で3位に食い込んだお笑いコンビ「ぺこぱ」の漫才に衝撃を受けた。誰かをおとしめて笑うのではなく、全てを肯定したうえで笑いを取る。実に「今どき」の笑いだと感じた。そこから連想したのが、邦画の魅力を紹介する本作だ。
内容は、高校1年生の映子さんが好きな映画を熱く語る…というものだが、このヒロインが曲者(くせもの)。邦画しか見ない「邦画者(もの)」なのだ。それも黒澤明や宮崎駿などの王道系ではなく、何ともマニアックな作品や、「公開の時一瞬話題になったがすぐにスーッとレンタル棚の隅に行った系」の作品ばかり。紹介する作品の偏り具合に笑ってしまう。
本作の魅力は、見た目は正統派ヒロインの映子さんによる、熱心かつ狂気的なプレゼンだ。だが、着眼点がちょっとズレてる人が語る感想は得てして楽しいもの。「そこを語る?」という指摘の連続に、その映画への興味を強くそそられる。ネタにされた制作サイドや俳優も、ここまで熱く語ってくれたら本望なのではないか-と想像する。
映画に詳しくなくても大丈夫。ライトな洋画ファンの部長が漫才さながらの突っ込みを入れ続けてくれるからだ。個人的には、約30作品ある「ゴジラ」シリーズについて語る回で、部長が「作品数が多いと入り口がわからないんだよ! 選べすぎて逆に選べない!!」と叫ぶシーンに共感した。
1話の「あなたの『好き』を肯定する」という言葉が示すように、アジア映画マニアや特撮マニアら強烈キャラも続々登場。市長の有能さが徹頭徹尾描かれる中国の「市長映画」なども紹介され、自分が普段見るジャンルがいかに限られているかを痛感する。
自分が気に入らなかった作品や、近年量産され続ける実写版について、「駄作」「なぜ実写化?」と否定することはたやすい。そうではなく、たとえ世間的に微妙な扱いの映画でも自分なりの視点で面白さを見いだすこと。それを人に伝えること-。映子さんは、理想的な映画鑑賞のあり方を改めて教えてくれる。既刊3巻。(服部昇大著/ホーム社発行、集英社発売)(本間英士)